ロスが提唱した「自己中心性バイアス」とは?分かりやすく解説
あなたは配偶者と、
「どっちが家事を多くやったか」
でケンカになったことはありませんか?
実は、これは2人とも「自己中心性バイアス」という心理的な性質を持っているからなのです。
本記事では、自己中心性バイアスの特徴や原因、具体例、克服法などについて、分かりやすく解説していきます。
自己中心性バイアスの定義
自己中心性バイアスとは、自分の視点で物事を考えすぎて、偏った思考パターンをなってしまうことを示す心理学用語です。これにより、他人の行いよりも自分の行いを過大評価するという傾向が現れます。
この自己中心性バイアスは、1979年にカナダのウォータールー大学教授ミッシェル・ロスにより提唱されました。
ロスは、研究調査で37組の夫婦を集め、
「自分がどれくらい家事をしていると感じているか?」
とそれぞれに尋ねたところ、どちらも自分の方が家事を多く行っていると回答する傾向がありました。
(参考文献:M. Ross and F.Sicoly, Egocentric Biases in Availability and Attribution, Journal of Personality and Social Psychology, 37 (1979), 322-336.)
自己中心性バイアスは多くの人が持っていると言われています。
例えば、同じ仕事を担当している上司と部下が、
「自分の方が仕事量が多い!」
と、どちらも考えてしまうのは、この自己中心性バイアスが影響しています。
このように、人は自分の立場でしか物事を考えられないので、共同作業したときに、自分が一番貢献度が高いと錯覚してしまうのです。
物事を自己の立場からしか考えられず、自分以外の視点を想像することができない状態を指します。
(スイスの発達心理学者ジャン・ピアジェにより提唱)
身近な自己中心性バイアス
自己中心性バイアスは、名称こそあまり知られていませんが、その影響は日常のあらゆるシーンで目にすることができます。
家事の役割分担
夫婦で家事や育児の押し付け合いになるのは、自己中心性バイアスが原因と考えられています。
自己中心性バイアスが強いと、
「私の方が、家事も育児もたくさんこなしている!」
と自分の負担を、実際よりも多めに感じてしまいます。
その結果、お互いに折り合いがつかず、ケンカに発展してしまうのです。
他人の評価に嫉妬
仕事をしていれば、一度や二度
「なんで、あんなヤツが良い評価を受けるんだ?」
と思ったことはありませんか?
これも自己中心性バイアスが関与している場合があります。
自己中心性バイアスによって、自分の行為を過大評価してしまうので、まわりの人よりも自分は会社に貢献したはずだと勘違いしてしまうのです。
逆に、自分が評価を受けるときは、他人から
「どうしてアイツが•••」
と思われてしまうかもしれません。
論文の筆頭著者の争奪
共同研究をやったことがある人ならば、少なからず似たようなトラブルになったことがあるのではないでしょうか?
-
「自分の方が実験量が多いのに!」と悔しい思いをしながら、セカンドオーサーにさせられる
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研究手伝わされたのに、なぜか論文に自分の名前が載っていない
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「あの先輩、大したアドバイスもしていないのに、セカンドオーサー主張してくる」
当然ながら研究は一人の力だけで遂行することはできません。
また、みな研究を一生懸命行っています。
それゆえに、研究への貢献度の高さでもめてしまうのです。
自己中心性バイアスの発生要因
自己中心性バイアスは、多かれ少なかれ、多くの人が持っている性質です。
その自己中心性バイアスが働く要因として、いくつかの説が考えられています。
情報の思い出しやすさ
人は、頭に思い浮かびやすい情報を重視して、物事を判断する傾向があります。
心理学では、これを「利用可能性ヒューリスティックス」と言います。
これが、自己中心性バイアスの原因になっていると考えられています。
要するに、相手が何したか具体的に分からないから、大変さも理解できないということです。
例えば、家事の分担で妻が料理、夫が掃除を担当し、双方が「自分の方が忙しい」と感じているという状況を思い浮かべてください。
妻の頭の中では、
「夫は掃除しかしない。でも私は料理するために、献立を考えたり、食材を買いに行ったり、栄養バランスを調整したり、とても大変!」
と思っているでしょう。
一方、夫は、
「妻は料理しかしない。でもオレは床掃除の他にも、トイレ掃除や風呂掃除、庭の掃除までやっているんだぞ!」
と考えていることでしょう。
このように、2人とも自分のことは詳しく知っているので、情報格差が生まれ、その結果「自分の方が忙しい」という自己中心性バイアスの思考パターンが生じてしまうのです。
プライドの高さ
プライドが高い人ほど、自己中心性バイアスが強い傾向があることが分かっています。
人はみな、「自分が誇らしい存在でありたい」という自尊心を持っています。
また、自尊心が傷つけられそうなときは、心理的にそれを守ろうとします。
例えば、あなたが職場の後輩とプロジェクトチームを組んで大きな成果をあげたとします。
その結果、後輩だけが認められて、部長から褒められました。
おそらく、あなたの自尊心は相当傷つくでしょう。
「自分も貢献した。部長の評価がおかしい。」
と思い込むことによって、プライドを守っているのです。
それが、自己中心性バイアスの発現に繋がっています。
自己中心性バイアスのマイナス面
自己中心性バイアスは、自分の自尊心を守ることができますが、それ以上に大きなデメリットがあります。
どのようなデメリットがあるか、いくつかご紹介しましょう。
信頼を失う
共同作業で、自分の貢献度が高いといつまでも勘違いしていると、まわりからの信頼を失ってしまいます。
例えば、職場の成果をいつも自分のものだと主張すれば、周囲の人から、
「あの人、いつも手柄を独り占めするから、もう一緒に仕事したくない」
と思われて、信用されなくなってしまいます。
人間関係を壊す
自己中心性バイアスは人間関係を悪化させる原因にもなります。
例えば、夫婦間の家事の分担で何度もケンカしていれば、そのうち離婚にまで発展してしまうかもしれません。
また、友人から敬遠されたり、会社で僻地に転勤させられたりする場合もあるでしょう。
成長できない
自己中心性バイアスは、自分の行いを過大評価してしまうので、「もう十分能力がある」と勘違いして、努力をしなくなってしまいます。
その結果、学習意欲がなくなり、成長のチャンスを逃してしまうでしょう。
ストレスの増大
自己中心性バイアスが強いと、相手を過小評価してしまうので、その相手が良い評価を受けるとネガティブな感情に支配されてしまう可能性があります。
例えば、自分より格下だと思っている相手が、他の人から褒められていたら、怒りや嫉妬でとてもイライラするでしょう。
その負の感情が、あなたの大きなストレス源になってしまうかもしれません。
自己中心性バイアスの克服法
自己中心性バイアスをそのままにしておくことはとても危険です。
トラブルを未然に防ぐためには、次の克服方法を実行してください。
情報の整理
自己中心性バイアスが引き起こされる原因に、「自分と相手が持つ情報の違い」がありました。
この情報格差を解消することができれば、自己中心性バイアスを改善することができるでしょう。
具体的には、自分の情報と相手の情報をすべて出し合って話し合いことです。
そうすれば、情報のずれがなくなり、お互いに公平な判断ができるでしょう。
第三者目線
自己中心性バイアスを軽減する方法の一つに、第三者目線の習得があります。
もし、相手と意見が食い違う場面に出くわしたら、
「関係ない人がこれを見たら、どう思うだろう?」
とイメージしてください。
客観的に物事を見るように努力することで、自己中心性バイアスを減らすことができるでしょう。
バイアスを深く知る
自己中心性バイアスは無意識に働いてしまうものです。
しかし、このバイアスの存在を知り、意識することができるようになれば、あなたの思考を変えることができます。
また、自分だけでなく他人にも自己中心性バイアスの存在を伝えることができます。
そうすれば、言い争いになったときでも平和的に解決できるでしょう。
似た心理効果
自己中心性バイアスが元となって引き起こされる心理効果があります。
いくつかご紹介しましょう。
スポットライト効果
自分の外見や行動が、他人から過度に見られているように感じる心理効果です。
例えば、自分が恥ずかしいTシャツを着て街中を歩いても、実は自分が思っているほど注目されていない場合が多いです。
知識の呪い
専門的な知識を持っている人は、それを知らない人の考えを想像できない心理現象です。
例えば、何割かの学校の先生は、知識の呪いによって学生の感覚が分からないから、教えるのがヘタなんでしょう。
透明性の錯覚
自分が他人に把握されていると感じる錯覚です。
例えば、悪いことをした人が、「きっとバレてる」と思い、精神的に追い詰められてしまうのは、この効果の影響でしょう。
偽の合意効果
自分の行動が一般的であると考え、多くの他人も同じ行動をするだろうと考える心理傾向ぇす。
例えば、会社の飲み会で、
「一杯目は生ビールでしょ。」
と勝手にみんなの分まで注文してしまう人がいますが、ビール以外が飲みたい人もいることを分かっていないのでしょう。
まとめ
本記事では、心理学者M.ロスの提唱した自己中心性バイアスについてご説明しました。
要点をまとめますと、以下のようになります。
②共同作業で自分の方が貢献度が高いと勘違いすること
②プライドの高さ
②人間関係を壊す
③成長できない
④ネガティブな感情が大きくなる
最後までご愛読ありがとうございました。