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バイアス教育と心理学のブログ

現状維持バイアスとは?要点を5分で解説【具体例&克服法】

あなたは、何か重要な選択に迫られたとき、

「前回と同じようにしよう」

と思った経験はありませんか?

これは、多くの人が変化することに不安を感じ、現状維持を好む傾向があるからです。

心理学では、これを「現状維持バイアス」と呼びます。

本記事では、

  • 現状維持バイアスとは何か?
  • なぜ起こるのか?
  • どうすれば克服できるのか?
  • どんな具体例があるのか?

について分かりやすく説明します。

◆ポイント!まとめ◆
現状維持バイアス
【定 義】変化を不安に感じ、現状維持を好む心理傾向
【発見者】ウィリアム・サミュエルソン名誉教授(ボストン大学)、リチャード・ゼックハウザー教授(ハーバード大学ケネディスクール)
【発表年】1988年
【原 理】プロスペクト理論に基づく「損失回避」によって引き起こされる
【解決法】①変化後の情報を知ること、②このバイアスの存在を意識すること

 

現状維持バイアスとは?

現状維持バイアスとは?

現状維持バイアス(バイアス:認知の偏り)とは、何か問題が起きないかぎり、現状維持を選び続ける行動傾向を指す心理学用語です。

1988年に、アリメカの2人の経済学者ウィリアム・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーによって提唱されました。

この現状維持バイアスは多かれ少なかれ誰しもが持っているとされています。

このバイアスが強いと、変化することに対して大きな抵抗感を持つようになります。

例えば、スーパーで日用品を買うときに前回と同じ商品を選んだり、仕事を前回と同じステップで進行させたりする傾向があります。

また、重要な選択であればあるほど、変化を恐れて現状維持を取る傾向になると言われています。

現状維持を選びたがる理由

現状維持バイアスが生じる根本的な原因は、人の「損失回避の傾向」にあるとされています。

損失回避の傾向とは?

人は意思決定の際に、「得したい」よりも「損をしたくない」という気持ちを優先して行動する傾向があります。

これを心理学では「損失回避の傾向」と呼んでいます。

なぜこのような傾向があるかというと、人は損失の心理的インパクトの方が大きいからです。

例えば、コイントスで表が出たら5万円もらえ、裏が出たら5万円支払うというゲームがあるとします。

あなたはこのゲームに参加したいと思いますか?

おそらく多くの人が参加しない選択をするでしょう。

なぜなら、2分の1の確率で5万円失うというリスクにばかり注意が向いてしまうからです。

これと同じように、現状維持バイアスも「損失回避の傾向」に由来しています。

つまり、人は変化によって得られる利益よりも失う損失を心配してしまい、その結果、現状維持を選んでしまうのです。

◆ポイント!◆
損失回避の傾向は、1979年にダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーという2人のアメリカ人経済学者によって提唱された「プロスペクト理論」の中に登場します。

 

日常での具体例

日常生活をしていると、さまざまな現状維持バイアスに遭遇します。

その例をいくつかご紹介します。

転職がなかなかできない

今の会社に不満を持っているのに、なかなか転職に踏み切れないのは、現状維持バイアスのせいです。

「転職先の企業が今よりもっと悪いかもしれない」という不安感から、現状維持を選択してしまいます。

定食屋で食べるメニューがいつも同じ

たまに行く定食屋で決まって焼き肉定食ばかり注文したり、お弁当を買うときはいつも唐揚げ弁当ばかり選んだりするのも現状維持バイアスです。

「もし別のメニューで失敗したらどうしよう」というイヤな考えがよぎり、安定の同じメニューを選んでしまうのです。

ただし、毎日同じ店に行く場合は、リスクを選好して違うメニューを開拓していく傾向にあります。

ケータイのキャリアがずっと同じ

別のキャリアでもっと自分に適したケータイプランがあっても、乗り換える決心が付かないのも現状維持バイアスが働いている影響です。

また、現状維持バイアスが強い人は、今使っているキャリア内のプランであっても変更することに抵抗感を持ちます。

iPhoneをずっと使い続けている

「今まで、スマートフォンはずっとiPhoneを買っている。」

という行動も現状維持バイアスが関係しているでしょう。

反対に、今までandroidしか使ったことがない人も同様です。

現状維持バイアスを乗り越えて、一度iPhoneの人はandroidandroidの人はiPhoneを使ってみると、意外と使い勝手が良いかもしれません。

マーケティングに利用されている具体例

現状維持バイアスは、企業のマーケティング戦略の一つとして利用されています。

その具体例をいくつかご紹介します。

Amazonプライムの1ヶ月無料

Amazonプライムは月額500円ですが、初めて登録すると1ヶ月無料になるキャンペーンを行っています。これは、顧客の現状維持バイアスを利用して、2ヶ月目以降も継続してもらえることを狙った戦略と言えるでしょう。

出産したらオムツがもらえる

大手日用品メーカーのP&Gは、一部の産婦人科と提携して、出産直後の母親に無償でパンパースを1袋提供しています。これは、その母親が次にオムツを購入する際に現状維持でパンパースを選ぶことを期待した戦略です。

家電を買うと消耗品がセットで付いてくる

一部の家電を買うと、その家電の消耗品が無料で付いてくることがあります。例えば、食洗機を新規で購入すると、ライオンやP&Gといったメーカーの食洗機用洗剤を無料で貰えます。これも現状維持バイアスを利用したマーケティング戦略でしょう。

 

どうすれば克服できる?

現状維持という行動はリスクを最小限に抑えられる一方で、変化したときのメリットを得る権利を捨ててしまうことになります。

では、どのようにすれば現状維持バイアスを克服できるのでしょうか?

変化後の情報を知る

人は変化した後の状態についての情報が少ないと、現状維持を選ぶ可能性が高まると言われています。

これは、人には不確かな選択肢を回避したがる性質があるからです。

例えば、あなたが転職を考えているとします。転職先の企業の情報(年収・待遇)が分からなければ、その会社に転職しようとは思いませんよね?

逆に、転職先の企業の情報をすべて調べたところ、年収が高く、通勤時間も短く、職場の雰囲気もとても良いと分かれば、転職に踏み切る可能性が大きく上がります。

このように合理的な行動を取るためには、情報が必要不可欠です。

そして、変化した後の情報をより多く知ることで、現状維持バイアスを軽減することができるでしょう。

バイアスの存在を意識する

もう一つの克服法は、現状維持バイアスの存在を意識することです。

このバイアスを日頃から意識することによって、意図的に行動を変えることができるでしょう。

例えば、行きつけの定食屋で同じメニューばかり注文してしまうのであれば、

現状維持バイアスを捨てて、もっと合理的に考えよう」

と意識すれば、違う選択ができるかもしれません。

まとめ

本記事では現状維持バイアスの定義・発見者・原理・具体例・克服法について紹介しました。

◆ 定義 ◆
変化することに対する恐れから、現状維持を選びたがる行動傾向
◆ 発見者 ◆
ウィリアム・サミュエルソン名誉教授(ボストン大学
リチャード・ゼックハウザー教授(ハーバード大学ケネディスクール)
◆ 原理 ◆
プロスペクト理論に基づく「損失回避の傾向」が原因とされています。つまり、利益を得ることよりも損を避けることを優先して行動を決定する人の性質が現状維持バイアスを引き起こしています。
◆ 克服法 ◆
変化後の情報を知ることやバイアスの存在を意識することで、現状維持の行動傾向を変えることができます。

現状維持バイアスについて、お分かりいただけたでしょうか?

もし本記事の内容が、あなたの生活の向上につながれば幸いです。

引用文献

1) W. Samuelson, R. Zeckhauser, Status quo bias in decision making, Journal of Risk and Uncertainty, 1 (1988), 7-59.

2) D. Kahneman, A. Tversky, Prospect theory: An analysis of decision under risk, Econometrica, 47 (1979), 263-292.