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バイアス教育と心理学のブログ

アンカリング・バイアスとは?どこよりも詳しく解説

アンカリング・バイアスとは?

テキトーに考えていると、ついさっき見たり、聞いたり、考えたりした情報に強く影響されて、自分の意思決定にバイアスがかかることがあります。

このような心理現象を「アンカリング・バイアス」又は単に「アンカリング」と呼びます。

アンカリング

アンカリング・バイアスの定義

直前の情報が、人の意思決定に大きな影響を与えることを”アンカリング“と呼びます。そして、影響を与えた直前の情報を”アンカー”と言います。アンカーとは、船の錨(いかり)のことで、錨を下ろして船を固定するように、最初の情報が人の心を支配してしまうので、そう呼ばれています。そして、アンカリングによって生じる判断の歪みを”アンカリング・バイアス”(バイアス:偏り)と呼びます。

たとえば、相手にインタビューをするときに、「将来に不安はありますか?」と質問すれば、”不安”という言葉がアンカーとなり、相手の回答は否定的になります。一方で、「日本は住みやすい国だと思いますか?」と質問の仕方を変えれば、肯定的な意見が増えるでしょう?

このように、アンカリングによって、人の判断にバイアスがかかり、それをアンカリング・バイアスと言うのです。

(参考:Lieder et al., 2018 *1

◇ポイント!◇
アンカリングは、1974年にA・トヴェルスキーとD・カーネマンという2人の行動経済学者によって提唱されました。

初期の重要なアンカリング実験

アンカリングを最初に発見したA・トヴェルスキーとD・カーネマンは、次のような実験を行ってアンカリングを見出しました。

(参考:Tversky & Kahneman, 1974 *2

割合推定実験

2人は、「国連に加盟しているアフリカの国々がどれくらいの割合なのか」を被験者に推理してもらう実験を行いました。

まず、推理してもらう前に、0〜100の数字が書かれたルーレットを回して、ランダムに1つの数字を決めました。その後に、「国連に加盟しているアフリカ諸国の割合(%)は、その数字より大きいか?小さいか?」と訊ねました。大きいor小さいと答えてもらったあと、さらに「では、その割合は何%だと思いますか?」と質問しました。実は、このルーレットには仕掛けがあり、10か65にしか止まらないようにできていました。

結果は、ルーレットが10に当たったグループの人の回答の平均値は25%で、65のグループの方は45%となり、驚くべきことに20%もの差が出ました。

これは、ルーレットの数字がアンカーの役割を果たし、回答者の推理に影響を与えたのです。

スピード暗算実験

トヴェルスキーとカーネマンは、高校生たちに「8×7×6×5×4×3×2×1の積はいつくか?」を”5秒”以内に答えさせるという実験を行いました。5秒しかないので丁寧な計算をしている余裕はなく、ある程度直感で答えなくてはなりません。せいぜい「8×7が56、さらに6をかけて300ちょい…」くらいまでしか頭が回らないも思います。

高校生の答えの平均値は2250でした。

本当の答えは40320です。

予想以上に大きい数字だという印象を受けるのではないでしょうか?これも、最初の2、3個の数字の積がアンカーになって、アンカリング効果を生んでいるのです。

実はこの実験にはまだ続きがあります。次は別の高校生のグループに「1×2×3×4×5×6×7×8の積はいつくか?」という先程の質問の数字を前後に入れ換えて出題しました。すると、面白いことに今度は答えの平均値が512となり、先程の出題方法よりも大幅に小さい解答になりました。1から順にかけていくと8からかけていくよりも小さな数字になるので、より小さい数字のアンカーが形成されたと考えられました。

 

2種類のアンカー

アンカーは2種類あります。

  1. 他者から提示される「提供型のアンカー」
  2. 自分の過去の記憶から作り出す「自己生成型のアンカー」

この2つについて詳しく見ていきましょう。

(参考:前述のLieder et al., 2018)

提供型のアンカー

提供型のアンカーとは、他者から提示されたアンカーのことを指します。

たとえば、「東京の平均気温は20℃より低いと思いますか?」と質問されたとします。この場合、20という数字は相手から提供されたので、提供型のアンカーとなります。

ちなみに2021年の東京の平均気温は16.6です。

(出典:気象庁HP『過去の気象データ検索』より算出)

標準的なアンカリングの実験と言えば、基本的にこの提供型のアンカーが使われます。

自己生成型のアンカー

提供型のアンカーの他にも自己生成型のアンカーというものがあります。

自分の知識の中に、すでに基準となる数字を持っているとき、その数字は自己生成型のアンカーとなります。

たとえば、「富士山頂での水の沸点は?」と聞かれたら、まずは誰でも「水の沸点=100℃」を思い浮かべると思います。それから、標高が高い場所では低い温度で沸騰するから「90℃くらいかな〜」と考えるのではないでしょうか?

このときの100という数字は、自分自身の知識の中にあったものなので自己生成型のアンカーと呼ばれます。つまり、他人からアンカーを明示されなくてもアンカリングは発生するのです。

アンカリングの発生メカニズム

アンカリングはどのようにして発生するのでしょうか?

現在、大きく分けて2つの理論が提唱されています。

それが、

  1. アンカリングと調整の理論
  2. 選択的アクセシビリティ理論

詳しく説明していきます。

アンカリングと調整の理論

この”アンカリングと調整の理論”の原案は、アンカリングの生みの親トヴェルスキーとカーネマンによって考案されました。

アンカリングと調整の理論では、思考プロセスを二段階に分けて説明されています。

①アンカーを作る思考プロセス(直感プロセス)

②アンカーから調整する思考プロセス(熟考プロセス)

です。

直感プロセスでは、人は手っ取り早く答えを出したいので、正確な答えに至る前の予備的な判断材料として、直前に提示された数字をアンカーとして採用します。その後、熟考プロセスで、じっくりとさまざまな追加情報を考えてアンカーの値から正しい値へ調整していきます。トヴェルスキーとカーネマンは、この調整が不十分になるため、アンカリングが発生すると説いています。

(参考:前述のLieder et al., 2018)

選択的アクセシビリティ理論

アンカリングのメカニズムを説明するもう一つの理論として選択的アクセシビリティ理論というものがあります。

この理論では、まず何らかの数字(アンカー)が提示されると、その数字から連想される情報が選択的に思い起こされるとされています。たとえば、110円と聞けば、缶ジュースがイメージされるのではないでしょうか?その後、答えの推測のときに、その情報へのアクセスが向上するために、回答がアンカーへ引き付けられると説明されています。

具体例を挙げると、「日本車の平均価格は200万円以下だと思いますか?」と質問されたとします。このとき、200万円と聞いたことにより、即座に200万円くらいの車(トヨタのアクアや日産のノートなど)が連想されます。そしてその後、「日本車の平均価格はどれくらいでしょうか?」と聞かれたときに、先程思い浮かべた200万円前後の車の情報に優先的にアクセスが集中します。アクセスしやすくなった知識に頼って答えを推理しようとする結果、自然と回答がアンカー寄りになってしまうということです。

(参考:Mussweiler & Strack, 1999 *3

アンカリングが強まる条件

先程と説明した「アンカリングと調整の理論」では、アンカリングの影響で意思決定にバイアスがかかっても、その後の調整のプロセスで正しい方向へいくらか修正が施されます。しかし、次の3つの条件下では、もともと不十分な調整がもっと不十分になるため、アンカリングが強まることが証明されています。

  1. アルコールを摂取しているとき
  2. 認知的な負荷がかけられているとき
  3. 考えることへのモチベーションが低いとき

(参考:Epley & Gilovich, 2006 *4

それでは、詳しく説明します。

1. 飲酒

アルコールを摂取して酔っているときは、アンカリングの効果が強まることが分かっています。

たとえば、心理学者のエプリーとギロビッチは、飲酒中の大学生とシラフの大学生に次のような質問をしました。

ジョージ・ワシントンが大統領に選ばれた年はいつか?(このときの答え:1788年)」

このとき、”1776年”がアンカーになります。なぜなら、ほとんどのアメリカ人は、アメリカ独立宣言が1776年であることを知っており、その少し後にワシントンが大統領に選ばれたと知っているからです。

実験の結果、飲酒した学生の回答の平均は約1779年シラフの学生の回答の平均は約1783年となりました。つまり、飲酒中の学生の方がよりアンカー(1776年)に近い結果になりました。このように、アルコールはアンカリングを強める効果があるのです。

2. 認知負荷

別のタスクで頭がいっぱいのときに質問されるとアンカリング効果が高まることが分かっています。

たとえば、エプリーとギロビッチは、学生に8文字のアルファベットを暗記させた上で、次のような質問をしました。

ウォッカの凍る温度は?(このときの答え:−29℃)

この質問では水の凝固点の0℃がアンカーの役割を果たしています。

実験の結果、暗記タスクで認知負荷がかけられている学生の回答の平均は約−9℃で、そうでない学生の回答の平均は約−13℃でした。つまり、認知負荷のある学生は、普通の学生より4℃もアンカーに近づいていたのです。

このように脳に負荷がかけられているときは、平常時よりもアンカリングに引っかかりやすくなります。

3. 低いモチベーション

考えるモチベーションが低い人は、高い人に比べてアンカリング効果を受けやすいことが分かっています。

たとえば、エプリーとギロビッチは、大学生たちに思考のクセを測るテストを実施して、物事をしっかり考える性格の学生と、テキトーに考える学生を選出し、次のような質問をしました。

「エベレストでの水の沸点は何℃か?(このときの正解:75℃)」

この質問では、地上での水の沸点100℃がアンカーとなっています。

実験の結果、熟考するタイプの学生の回答の平均は約77℃で、考えるモチベーションが低い学生の回答の平均は約81℃でした。つまり、モチベーションが低いとアンカリング効果を大きく受けることが分かったのです。

アンカリングが軽減される条件

さまざまな実験から、アンカリングが弱まる条件があることが分かっています。それが、

  1. 知識量
  2. 正確に答えようとする意志
  3. 金銭報酬

です。それでは、詳しく解説します。

1. 知識量

知識量が多いほどアンカリングの影響を受けにくくなります

たとえば、スカイツリーの高さは300mより高いか低いかを考えるとき、東京タワーの高さが333mだと知っている人からすれば、300mはあり得ない数値だと気付くでしょう。しかし、それを知らない外国人からすれば、300mも妥当な数値に含まれてしまいます。すると、300というアンカーを意識してしまいアンカリングの影響を受けることになってしまいます。このように、対象に関する知識の有無によってアンカリング・バイアスは増減します。

(参考:前述のMussweiler & Strack, 1999)

2. 正確に答えようとする意志

正しい答えを考えようと努力する意識の高い人は、アンカリング効果を受けにくくなる場合があります。

たとえば、時間をかけてじっくり考えようとする人は、アンカリングによって判断がアンカーへ偏ってしまっても、その後の調整プロセスでしっかりと軌道修正することができるので、正確な回答に近づくことができます。反対にモチベーションが高くない人は、正確な答えを探す努力を怠り、手っ取り早く探し出そうとするので、アンカリングの影響を強く受けてしまいます。

(参考:前述のEpley & Gilovich, 2006) 

3. 金銭報酬

金銭などの報酬を与えることによって、アンカリングを抑制する手段もあります。要するに、回答者を物で釣って、考えるモチベーションを引き出そうとする行為です。このように、報酬や罰則などによってモチベーションをコントロールすることを、心理学では「外発的動機づけ」と言います。

たとえば、「次の質問に答えられたら1万円あげます」と言われたら、答えをとても真剣に考えますよね?

このように報酬によってモチベーションを上げることによって、アンカリングを軽減できる場合があるのです。

(参考:前述のLieder et al., 2018)

 

おまけ〜”アンカリング”の別の言い方~

アンカリング以外にも、アンカリング・バイアスやアンカリング効果といった別の呼び方があります。ほとんど同じ意味ですが、心理学者は区別していますのでご紹介します。

アンカリング(Anchoring):1974年にトヴェルスキーとカーネマンによって命名された用語です。推定値がアンカーに偏る現象を発見し、アンカリングと命名しました。

アンカリング現象(Anchoring phenomenon):論文を読んでいると、アンカリング現象という言葉が散見されますが、アンカリングとほぼ同義です。

アンカリング効果(Anchoring effect):アンカリングとほぼ同義ですが、アンカリングによる効果を強調したいときやアンカリング・バイアスなどと区別したいときに使われます。

アンカリング・バイアス(Anchoring bias):アンカリングによる意思決定や判断の偏りを示す用語です。

アンカリング・ヒューリスティック(Anchoring heuristic):アンカリングを意思決定のためのツールとみなす場合に、アンカリング・ヒューリスティックと呼びます。アンカリングという心理現象を使って、人は物事を素早く判断しているのです。そもそもトヴェルスキーとカーネマンは、「アンカリングらヒューリスティックの1つだ」と言っており、その結果としてアンカリング・バイアスが生じるのです。

*1:F. Lieder, T.L. Griffiths, Q.J.M. Huys, N.D. Goodman, The anchoring bias reflects rational use of cognitive resources, Psychon. Bull. Rev., 25 (2018) 322–349.

*2:A. Tversky and D. Kahneman, Judgment under uncertainty: heuristics and biases: biases in judgments reveal some heuristics of thinking under uncertainty, Science, 185 (1974) 1124-1131.

*3:T. Mussweiler and F. Strack, Hypothesis-Consistent Testings and Semantic Priming in the Anchoring Paradigm: A Selective Accessibility Model, Journal of Experimental Social Psychology, 35 (1999) 136–164.

*4:N. Epley and T. Gilovich, The anchoring-and-adjustment heuristic: why the adjustments are insufficient, Psychological Science, 17 (2006) 311-318.

後知恵バイアスとは何か?詳しく解説

後知恵バイアスとは?あなたの周りに、「やっぱり」が口癖の人はいませんか?

もしくはあなた自身、たとえば部下が書類のミスをしたときや子供が飲み物をこぼしたとき、「やっぱりね!やると思った!」と感じたことはありませんか?

 

これは『後知恵バイアス』と呼ばれる心理的な現象で、あたかも「最初から分かっていた」かのように錯覚してしまう判断バイアス(バイアス:偏り)の1つです。

 

本記事では、後知恵バイアスの意味や具体例を分かりやすく、かつ詳細にご説明します。

 

後知恵バイアスの図

後知恵バイアスとは何か?

心理学の判断・意思決定領域の専門家ニール・ローズ教授によると、

後知恵バイアスとは「何かが起こった後に『初めから分かっていた』と感じること」だと述べています。

(参考:Roese, 2012 *1

もう少し、具体的に説明します。

人は、将来起こりうる結果を予測できていなかったとしても、いざ結果が分かると「ほら、やっぱりそうなった」と、あたかも事前に予測できていたかのように錯覚してしまうのです。

これが後知恵バイアスです。

◇ポイント!◇
後知恵バイアスを初めて実験的に記録したのは、アメリカの心理学者バルーク・フィッシュホフ教授(Fischhoff, 1975 *2)だと言われています。
(参考:Christensen-Szalanski, 1991 *3

後知恵バイアスの具体例

医療現場にて

脳に腫瘍があると診断された男性のお話です。

この男の去年撮ったCT画像を見返すと、わずかに腫瘍らしき影が見えました。

この画像を元に、男性は「腫瘍は去年発見できたはずだ」と医師の見落としを主張しました。

果たして本当に医療過誤なのでしょうか?

これは後知恵バイアスの良い例です。

結果を知っているからこそ、そのCT画像の腫瘍が見えたのです。

結果を知らなければ、腫瘍の影は画像のノイズにしか見えなかったことでしょう。

このように、後知恵バイアスが働くと、現在の結果を容易に予測できたのではないかと勘違いしてしまうのです。

職場にて

とある社員が、取り返しのつかない不祥事を起こしてしまいました。

会社役員らが、不祥事の原因調査を行ったところ、過去の定期面談の資料から「不祥事の兆候がいくつも発見されました。

そのことが原因で、その社員ともども面談を行っていた上司にも責任があると判断されてしまいました。

果たして上司は、本当に部下の不祥事の兆候を見過ごしていたのでしょうか?

結果的には、そう見えるかもしれませんが、これも不祥事という結果が判明しているからこそ、過去の面談資料の中の兆候を見つけることができたのです。

上司が「将来、部下が起こす不祥事」を予期できたかというと、状況にもよりますが、難しいと思います。

警察への避難

時折ニュースで、ストーカーによる殺人事件が取り上げられています。

その度に、ニュースのコメンテーターなどから「なぜ警察はストーカーによる殺人を未然に防げなかったのか?」と責められています。

確かに、被害者は殺される前にストーカー被害を受けていて、警察もそれを把握しているならば、犯罪を防止できなかった責任は警察にもあるかもしれません。

しかし、やはり殺人が起こったからこそ、その殺人の発生を容易に予測できるのです。

後知恵バイアスが働くと、責任者を必要以上に責めてしまうことになります。

後知恵バイアス発生のメカニズム

ニール・ローズ教授によると、後知恵バイアスは3つの要素から生じるとされています。

それが、

  1. 予見可能性
  2. 必然性への信念
  3. 記憶の歪み

です。

難しいので出来るだけ分かりやすく説明していきます。

予見可能性

後知恵バイアスを生じさせる人の性質の1つに″予見可能性″というものがあります。

予見可能性とは、「今現実に起こっている出来事を事前に予見できたと感じる性質」のことです。

この予見可能性レベルが高い人は、

・こうなると思った

・最初から分かっていた

という感覚が強くなります。

つまり、そのような人は、自分の予見能力を過信していることになり、その過信が後知恵バイアスとして現れているのです。

必然性への信念

必然性への信念も後知恵バイアスを発生させる要素の1つです。

必然性への信念とは、

・物事は起こるべくして起こった

・過去の出来事はあらかじめ決まっていた

・これも運命だな

などと考える性質のことです。

この必然性への信念が強いと「与えられた状況では、この結果以外ありえない」と考える傾向が強くなります。

このような思考が、後知恵バイアスを生むのです。

記憶の歪み

記憶の歪みによって後知恵バイアスが生じることもあります。

記憶の歪みとは、自分の過去の記憶が改ざんされたり、無意識に記憶情報を取捨選択したりしてしまうことです。

なぜこのようなことが起きるかと言うと、人は自分の記憶情報が現在起こっている情報とピッタリ合うと、とても気持ち良く感じるからです。

その結果、人は現在の情報と一致する記憶を活性化し、一方で矛盾する記憶を非活性化したままにしてしまうのです。

そして、「確か、あの時こうなると思っていたはずだ」という考えに至り、後知恵バイアスを発生させてしまいます。

後知恵バイアスが引き起こす問題点

ニール・ローズ教授は、後知恵バイアスが個人の意思決定に重大な悪影響を及ぼすと指摘しています。

それはどのような問題なのでしょうか?

見ていきましょう。

視野を狭める

後知恵バイアスは、考え方の視野を狭めてしまう危険性があります。

要するに、問題の原因を特定するときに、洞察力が欠如して誤った原因に決め付けてしまうということです。

その結果、先ほどの職場での後知恵バイアスの具体例のように、問題の責任がない人に責任を負わせることになる可能性があります。

自信過剰になる

後知恵バイアスによって、自信過剰になってしまうという問題点もあります。

つまり、後知恵バイアスが働くことによって、自分は予測能力が高いと誤認識してしまうのです。

自信過剰になった結果、他の視点を見落としたり危険な計画を推し進めたりと、ネガティブな影響を与えてしまうことでしょう。

後知恵バイアスから抜け出すためには?

後知恵バイアスは、自分や他人の人生に多大なる悪影響を及ぼします。

次の解決法にチャレンジして、一刻も早く克服することをおすすめします。

「逆を考える」戦略

もし、現実とは逆の結果になっていたらどうだっただろうか」ということを考えることで、後知恵バイアスを軽減させることができます。

たとえば、次のようなシチュエーションを考えてみてください。

閑静な住宅地で、殺人事件が起きました。

あなたは、殺された男性の妻です。

刑事さんは「2人の容疑者がいる」と言いました。

その容疑者が

A:夫の浮気相手「A沢」

B:夫の会社の部下「B島」

数日後、事件が解決し、A沢が犯人だったと分かりました。

このとき、あなたは後知恵バイアスが働くせいで、「あぁ、やっぱりA沢か。思ったとおりだ。」という気になっています。

ここで「逆を考える」戦略です。

もし、犯人がB島だったらどう説明がつくか考えます。

「そういえば、夫は昔B島にパワハラをしていた」

逆の選択肢を無理やり考えることによって、B島にも殺人の動機があることに気付きます。

つまり、「逆を考える」戦略によって、眠っていた別の情報が刺激されるのです。

その結果、2つの情報をより公平に考えることができるようになり、後知恵バイアスが薄れるのです。

フィードバックを受けること

後知恵バイアスを抑える方法はもう1つあります。

それは、結果に対しての過去の自分の予測が正しかったかどうか、継続的にフィードバックを受けることです。

なぜなら、繰り返しフィードバックを受けることで、自分は正しい判断ができていたのかを何度も答え合わせできるからです。

例えば、天気予報士は毎日天気の予測と結果発表を行っています。

前日の自分の天気予報が正しかったか何度もフィードバックを受けることで、過信や後知恵バイアスを減らすことができるのです。

もし、これを日常生活に活用するならば、結果が出る前にメモを取っておくと良いでしょう。

そのメモには、結果に対する自分の判断を書き込んでください。

結果が出た後に、そのメモを読み返すことで、後知恵バイアスによる歪みを修正できるはずです。

終わりに

いかがでしたでしょうか?

後知恵バイアスという存在によって、自分の判断は絶対ではないということが分かりましたか?

自分の判断だからと信じ切ってはいけません。

特に、過去の判断ほど信用できないものはありませんから。

*1:N.J. Roese and K.D. Vohs, Hindsight bias, Perspectives on Psychological Science, 7 (2012) 411-426.

*2:B. Fischhoff, Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 1 (1975) 288-299.

*3:J.J. Christensen-Szalanski and C.F. Willham, The hindsight bias: A meta-analysis, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 48 (1991) 147-168.

社会的望ましさバイアスと何か?意味と具体例を詳しく紹介

お父さんから「彼氏はいるのか?」と聞かれたときに、いないと嘘をつく
合コンで「私お酒弱いんです」と言って、本当は酒好きであることを隠す

これらの行動は、自分をできるだけ良く見せようとする人間の本質からきています。

そして、このように相手から良く思われるように嘘をついたり、イメージが悪くなるような回答を避けたりする心理傾向を『社会的望ましさバイアス(バイアス:偏り)』と言います。

つまり、社会的望ましさバイアスとは、望ましいことはオープンにするけれど、後ろめたいことは隠す傾向のことです。

本記事では、

社会的望ましさバイアスとは何か?
どのような要因から生じるのか?
どうすれば軽減できるのか?
どんな具体例があるのか?

などについて専門的かつ分かりやすく解説していきます。

社会的望ましさバイアス

なぜ人は嘘をつくのか?

おそらく、この世で嘘をついたことのない人間なんて赤ちゃんだけでしょう。

それでは、どうして人は嘘をつくのでしょうか?

一説によるとそれは、「恥ずかしい」や「情けない」といったネガティブな感情を避けるためだと言いいます。(参考:Schaeffer, 2000*1

たとえば、男性は、今まで1人も彼女がいないことを恥ずかしく思い、友人たちに「中学の時彼女いたよ。」などと数を水増しすることがあります。

一方で、女性は、今まで複数の男性とお付き合いしていたにも関わらず、気になる異性に対して「付き合った経験少ないんです。」と数を減らす方向へ嘘をつく傾向があります。

日常生活における軽微な嘘は、比較的低い認知負荷で済むと言います。

つまり、人は恥ずかしい思いを避けるためなら、簡単に嘘がつけるのです。

社会的望ましさバイアスとは何か?

マーケティングや消費行動についての研究を行なっているロバート・J・フィッシャーは社会的望ましさバイアスを次のように定義しています。

″社会的望ましさバイアス(social desirability bias)とは、他人に好ましいイメージを与えたいという欲求によって、社会的に望ましくなるように報告を歪めてしまうこと(参考:Fisher, 1993 *2

言い換えると、社会的望ましさバイアスは、自分をできるだけ良く見せようとして社会的に望ましい考えを誇張して言ったり、逆に望ましくない考えを過小に言ったりすることです。

たとえば、ボランティア活動に行ったことのある回数を水増しして報告したり、反対に、飲酒運転した回数をごまかしたりすることなどは、社会的望ましさバイアスが働いた結果です。

このように、他人から善人だと思われたいという気持ちから、人は社会的に望ましくなるような小さな嘘をついてしまうのです。

社会的望ましさバイアスの具体例

社会的望ましさバイアスは、望ましいことだけをオープンにして、やましいことを隠す傾向のことです。

このバイアスは、私たちが社会生活を送る上で必ず発生します。

どのような場面で生じるか、具体的な例でご紹介します。

  • 本当は生活保護をもらっているのに、「働いている」と知り合いや親族に嘘をつく
  • 自分の彼女に、大学時代にしていたパチンコやギャンブルのことを隠す
  • 健康診断の時に、医師から「週にどれくらい運動していますか?」と尋ねられ、少し鯖を読む
  • 選挙の投票に行った回数を盛って報告する
  • 上司は仕事内容を報告するときに、良い成果だけを伝え、悪いことは隠す
  • 離婚調停で、お互い自分に有利な情報はしっかり主張するが、不利な情報はあまり言わない

これらはすべて社会的望ましさバイアスが作用した行動です。

コロナ禍での社会的望ましさバイアス

コロナが陽性となり、保健所にこれまでの行動履歴を自己申告するときに、望ましい行動だけを申告し、後ろめたい行動は申告しないことが問題となっています。

たとえば、自宅で大人しくしていたことはしっかり報告しますが、陽性が判明する前日に飲み会をしていた事実は隠す傾向にあります。

このように、社会的望ましさバイアスの悪い面がコロナ禍において顕著に現れています。

誰に報告するかで嘘の仕方が変わる

社会的望ましさバイアスの方向性は、報告する人によって変わります。

これはどういうことかと言うと、

たとえば、昔少し調子に乗ってタバコを1回だけ試しに吸った経験があるとします。

それだけなのに、同僚や後輩には

「昔、タバコ吸ってたんだよね〜」

と盛って自慢するでしょう。

一方で、学校の先生や会社の上司、結婚相手の両親などには

「タバコは吸ったことありません」

と1回程度の喫煙の経験なら平気で無かったことにするでしょう。

このように、相手の立場によって何が社会的に望ましいかは違っており、それによって嘘の方向性が変わるのです。

 

無意識か意図的か?

多くの認知バイアスは無意識下で働くと言われています。

では、社会的望ましさバイアスも無意識に働くのでしょうか?

それとも意図的な嘘なのでしょうか?

社会心理学者トーマス・ホルトグレーブスによると、社会的望ましさバイアスは完全に無意識ではなく、少なくともある程度は意図的なものだと考えられているようです。(参考:Holtgraves, 2004 *3

具体的に言うと、相手に好印象を与えたいという意図的な印象操作と、無意識に自分を騙す自己欺瞞が混在しています。

自己欺瞞の説明を深掘りすると、まず質問を受けた者は、社会規範に則った肯定的な自己イメージを思い浮かべます。

そのイメージ上の自分と現実の自分にギャップ(認知的不協和)があれば、自分自身を騙して、理想のイメージに近づけようとするのです。

これが自己欺瞞です。

まとめると、社会的望ましさバイアスは、印象操作と自己欺瞞の2つの面があるということです。

社会的望ましさバイアスを生む3つの要因

社会的望ましさバイアスは誰にでも働きます。

意思決定行動や経済の研究をしているドイツ人科学者フォルカー・ストッケは、社会的望ましさバイアスを発生させる3つの要因を提唱しています。(参考:Stocké, 2004 *4

それが、

  1. 承認欲求が強いこと
  2. プライバシーが保護されていないこと
  3. 望ましいと感じる感覚を持っていること

それでは、詳しくご説明します。

承認欲求が強いこと

社会的望ましさバイアスが生じる条件の1つに承認欲求の強さが挙げられます。

人には多かれ少なかれ

  • 他者から認められたい
  • 否定されたくない

という承認欲求があります。

強い承認欲求によって、自分の本当の考えを隠して社会的に望ましい考えを伝えようという行為をするようになるのです。

たとえば、過去に友達をいじめていたことがあるにも関わらず、「いじめは良くない」と矛盾する主張したり、昔タバコを吸っていたことがあるのに、「吸ったことない」と嘘ついたりするのは、他人から承認されたいからです。

このように、承認欲求によって社会的望ましさバイアスが生まれるのです。

プライバシーが保護されていないこと

たとえ、承認欲求が強くても、誰にも見られていなければ、社会的望ましさバイアスは発揮できません。

つまり、″誰かに見られている″=″プライバシーが保護されていない状況″で、社会的望ましさバイアスは強くなります

具体的には、

  • アンケート形式で質問に回答するか
  • インタビュー形式で質問に回答するか

これらを比較したときに、インタビュー形式の方が、社会的に望ましい回答をする傾向が強くなります。

これはインタビューだと、誰かに見られていると感じるからです。

見られていると、承認欲求を満たそうとして「社会的に望ましいことを言わなきゃ」と考えます。

一方で、アンケート形式では自分で用紙に記入するだけなので、誰にも見られません。

見られていないと、社会的に望ましい回答をしても承認欲求を満たすことができないため、正直なことを記入する傾向が強まります。

このように、自分の回答がオープンになっていると社会的望ましさバイアスが強まり、自分の回答が秘匿になっていると社会的望ましさバイアスは弱まるのです。

望ましいと感じる感覚を持っていること

望ましいと感じる感覚が無ければ社会的望ましさバイアスは発生しません。

そして、何について社会的に望ましいと感じるかは個人差があります。

たとえば、日本人は他人の家で食事を振る舞われた時、

A:残さず食べる

B:少し残す

の選択肢のうち、大多数の人がAの方が社会的に望ましいと考えるでしょう。

一方で、中国人はBの選択肢を社会的に望ましいと考えるようです。これは、食事を振る舞ってくれた方に「料理が足りなかったかな」と思わせないためだそうです。

この他にも、第3の意見として、どちらの選択肢も望ましさは同じだと考える人もいるでしょう。

このように人によって望ましいとされる行動は異なり、望ましいと思わなければバイアスはかかりません。

そして、その望ましさの信念に応じて社会的望ましさバイアスの方向性や大きさが変わってくるのです。

"脱"社会的望ましさバイアスのテクニック

相手に何か質問をしたときに、正直な回答を求めるなら、ぜひ次のようなテクニックを使ってみてください。

匿名を約束する

ロバート・J・フィッシャー(1993)の研究によると、匿名が保証されている状況では、人は正直な回答をしやすくなるといいます。

つまり、逆に言うと実名が公開されたり、個人情報と結びつけられたりするようなときは、社会的望ましさバイアスが誘発されるということです。

なぜなら、匿名でないと、人は社会的な圧力を感じ、自分を良く見せようとするからです。

たとえば、アンケートで

「今まで万引きしたことがありますか?」

という質問をされたとしましょう。

もしも、実名で犯罪を告白したならば、

  • 裏で罰則があるかもしれない
  • バラされるかもしれない
  • 嫌がらせを受けるかもしれない

という心理的な不安をずっと背負うことになります

そのようなリスクを負いたくないので、人は社会的望ましさバイアスを働かせて嘘をつくのです。

ところが、匿名であれば、そのようなリスクを受けることはありません

要するに、匿名にすることで心理的な安心感が生まれ、正直な発言をするようになるのです。

間接質問をする

同じくロバート・J・フィッシャーの研究で、間接質問によって社会的望ましさバイアスが軽減することが分かりました。

間接質問とは、主語を三人称にする質問方法です。

具体的に言うと、質問の際に

「あなたは・・・」

ではなく

「多くの人は・・・」

などと言い変えることです。

たとえば、あなたが男性で、とある女性の人から次のような質問をされたとしましょう。

直接質問「あなたは、育児は女性の仕事だと思いますか?」

間接質問「多くの日本人男性は、育児は女性の仕事だと思っていると感じますか?」

どちらが正直に答えやすいでしょうか?

明らかに間接質問の方が、正直に回答しやすいと思います。

これは、間接質問では、発言に自分の責任が乗っからないからです

しかも、間接質問では、三人称で質問しているのに、無意識に個人の考えを述べさせることができます。

このように、間接質問は社会的望ましさバイアスを弱めてくれる効果があるのです。

機密性を保証する

社会心理学者エレノア・シンガーらによると、機密保持の保証をすることによって質問の回答率を高め、正直な回答を引き出しやすくなるといいます。(参考:Singer et al., 1995 *5

具体的に言うと、アンケートの最初に

「個人情報を目的以外で使用しません」

などの文言を入れておくことによって、社会的にグレーな内容に踏み込んだ質問にも正しく答えてくれる可能性が高くなるということです。

たとえば、「あなたの情報は第三者機関に決して漏らしません」と書かれているといないとでは、安心感が雲泥の差ですよね?

つまり、機密性の保証が信頼感を生み、それが社会的望ましさバイアスの軽減につながるのです。

調査の重要性・科学性を強調する

社会学者アイヴァー・クランパルは、自身の論文のまとめに、調査の重要性や科学性を強調すると、正しい回答が得られるのではないかと述べています。(参考:Krumpal, 2013 *6

つまり、質問の正当性を訴えかけることで、社会的望ましさバイアスを軽減させることが可能というわけです。

また、科学性を強調することによって、質問の目的が明確になり、安心感を生み出すことができます。

たとえば、「あなたの意見は、将来の科学の発展に貢献する非常に重要なものです。」と前置きされたら、正直な意見を言うべきだと考えるでしょう。

このように、質問の重要性や科学性を伝えることが、社会的望ましさバイアスを減少させる可能性があるのです。

*1: N.C. Schaeffer, Asking questions about threatening topics: a selective overview, In: A.A. Stone, C.A. Bachrach, J.B. Jobe, H.S. Kurtzman and V.S. Cain (Eds.), The Science of Self-Report: Implications for Research and Practice (1st), pp. 105-121. Psychology Press, New York, (2000)

*2:R.J. Fisher, Social desirability bias and the validity of indirect questioning, Journal of consumer research, 20 (1993) 303-315.

*3:T. Holtgraves, Social desirability and self-reports: Testing models of socially desirable responding, Personality and Social Psychology Bulletin, 30 (2004) 161-172.

*4:V. Stocké, The interdependence of determinants for the strength and direction of social disirability bias in racial attitude surveys, https://madoc.bib.uni-mannheim.de/2730/.

*5:E. Singer, D.R.V. Thurn, E.R. Miller, Confidentiality assurances and response: A quantitative review of the experimental literature, Public Opinion Quarterly, 59 (1995) 66-77.

*6:I. Krumpal, Determinants of social desirability bias in sensitive surveys: a literature review, Qual Quant, 47 (2013) 2025-2047.

社会的比較バイアスとは?分かりやすく解説

人は無意識のうちに、自分と他人を比較しています。

たとえば、

  • 同期の〇〇さんってどれくらいのお給料なんだろう?
  • 〇〇さん家の子よりウチの子の方が頭良い!
  • かけっこで1位を取れた!うれしい!

人は誰かと比べることで、自分の力量を確かめているのです。

今回は、社会で自分と他人を比較するときに生じる認知バイアス社会的比較バイアス」について分かりやすくご説明します。

 

◇関連用語・簡単まとめ◇
〇社会的比較バイアス
(Social comparison bias)
自分を、自分よりも劣っている人と比較することで、自分の相対的な優位性を確保しようとする傾向。特に自分の得意な分野で、この傾向が強くなる。
〇社会的比較
(Social comparison)
社会や特定の集団の中で、自分を他人と比較すること。
〇社会的比較理論
(Social comparison theory)
社会的比較について理論的に説明したもの。この理論では、人は自分を評価したいという欲求を持っているとされており、その評価は自分と他人と比較することで行われると説明されている。
社会的ジレンマ
(Social dilemma)
個人が一番得する選択が、ある集団や社会全体の最適な選択とは言い切れないときに起こる葛藤。(ジレンマ:板挟み)

社会的比較バイアス

なぜ人は他人のことが気になるのか?

人は誰しも他人を気にしています。

たとえば、

  • 会社の同僚のお給料はどれくらいか?

  • みんなは結婚式のご祝儀をいくら包んだか?

しかし、これは裏を返せば、

  • 自分のお給料は高いのか?

  • 自分のご祝儀は適正な金額か?

ということを気にしていると言えます。

つまり、他人を気にしているように見えて、実は自分のことが気がかりなのです。

 

このような社会的比較について社会心理学者レオン・フェスティンガーは次のように言っています。

「人は自分自身を評価したいという欲求を持っており、その欲求を満たすために自分と他人を比較する。」

つまり、人は自分の能力や立ち振る舞いを正しく評価したいと思っており、そのために人と自分を比べるのです。

◇ポイント!◇
上記のような、社会の中で人と自分を比べることについての理論を「社会的比較理論」と言います。
(参考:Festinger, 1954*1

社会的比較バイアスとは?

社会的比較バイアスでテストの点数を比較

ミシガン大学の心理学者スティーヴン・M・ガルシア准教授らは、

「社会的比較バイアスとは、人は自分自身が高い評価を得ている分野では、自分の相対的優位性を保つために、自分よりも劣った人物を自分の比較対象として選ぶ性質である」

と定義しています。(参考:Grcia, et al., 2010*2

難しいので、別の言い方をすると、

人はすべての分野で他人よりも優位に立ちたいと思っているわけではありません。

自分のプライドがかかっている分野でのみ、人よりも優れていたいと欲するのです。

そして、そのような重要な分野では、優位性を確保するために、自分の引き立て役になる人物をそばに置きたがるということです。

たとえば、仕事にプライドを持っている人は、仕事量や質で自分よりも劣っている人と比較して、優越感に浸る場合があります。

これが社会的比較バイアスです。

社会的比較バイアスの実証

ガルシア准教授らは社会的比較バイアスを調べるために次のような実験を行いました。(参考:前述のGrcia, et al., 2010)

大学で架空の実験を企画し、被験者の大学生たちには、別の学生をその架空の実験のアシスタントとして選んでもらうように指示しました。その結果、数学が得意な学生は、自分のアシスタントとして自分よりも数学が劣っている学生を選ぶ傾向があることが分かりました。同様に、言語に強い学生は、言語が苦手な人をパートナーに選びました。逆に、数学が苦手な学生や言語が苦手な学生は、自分よりも数学や言語が得意な人をアシスタントに選ぶことに抵抗はないようでした。

この実験から、「誰かとチームを組むとき、人は自分の得意な分野の能力が自分よりも劣っている人物をチームメンバーに選びがちである」という結論が導き出されました。

社会的比較バイアスの具体例

社会的比較バイアスは、自分の得意な分野で、人との相対的優位を保ちたいと欲する傾向です。

多くの人が持っているとされているため、日常でもよく見受けられるでしょう。

たとえば、

  • 自分の容姿にプライドを持っている人が、合コンのメンバーを集まるとき、自分よりも顔の偏差値が低めな友人を誘う。

  • フットサルサークルで一番実力のあるチームリーダーが、チームの助っ人として自分よりも上手な人を呼ぶことをためらう。

  • パソコンが得意なことが強みの若手社員の係に、自分よりももっとパソコンが得意な新入社員が入ってくることを嫌に思う。

日常のあらゆるところで、自分と他人が比較されるシーンは多々あると思います。

比べられる土俵が自分の得意な分野であれば、人は自分の優位を保ち続けたいと欲するのです。

社会的比較バイアスが発生する理由

なぜ社会的比較バイアスが働くのでしょうか?

ガルシアら准教授らは、それは「自尊心」を維持するためだと説明しています。

自尊心とは、人が生まれながらにして持っている「自分には価値がある」という感覚です。(参考:Branden, 1990*3

アバウトに言うと、プライドや自信のようなものです。

自尊心があるからこそ、自分の相対的優位を保とうとする“社会的比較バイアス”が生じるというのです。

たとえば、お料理教室で30年間お料理を教えてきたベテラン講師が助手を雇うために採用面接を行ったとします。

その面接に、三ツ星ホテルのシェフと料理学校の学生が受けに来たとしたら、どちらを採用するでしょうか?

おそらく、ベテラン講師は学生を採用します。

なぜなら、自分よりも料理の腕が良いシェフを選んだ場合、ベテラン講師の自尊心が脅かされてしまうからです。

合理的に考えれば、三ツ星のシェフを雇った方がお料理教室のレベルはグンと上がるでしょうが、心理的な抵抗があるのです。

このように、自分の自尊心を守るための防衛機能として、社会的比較バイアスが働きます。

社会的比較バイアスのデメリット

社会的比較バイアスが働くことで自分の自尊心を維持できるというメリットがありますが、世の中にはさまざまなデメリットをもたらします。

詳しく見ていきましょう。

社会的ジレンマを発生させる

社会的比較バイアスによるデメリットの1つが“社会的ジレンマ”の発生です。

社会的ジレンマとは、個人にとって最も得する選択が、ある組織の最適な選択と一致しないときに起こる葛藤です。(参考Chen, 1994*4

たとえば、暑がりな課長が社内のエアコンの温度を24℃に下げてしまったら、他の社員は寒くて仕事にならないでしょう。

これは、課長にとって最善の選択が、会社全体にとって悪い選択になってしまうという社会的ジレンマの一例です。

この社会的ジレンマが、社会的比較バイアスにより発生します。

つまり、自分の相対的優位を守ることによって自分は得しますが、組織全体で見ると損になってしまうということです。

たとえば、会社でパソコンが得意な上司が、自分の優位を守るために、自分によりもパソコンが得意な社員を部下にしないような人事をしてしまった場合、どうでしょう?

上司は自分のプライドは守れて満足かもしれませんが、会社の利益にはなりません。

このように、社会的比較バイアスは、個人と組織の利益の相反“社会的ジレンマ”を発生させてしまうのです。

健全な競争ができない

社会的比較バイアスのもう一つのデメリットは、正しい競争原理が働かなくなることです。

人は競争によって成長します。

競争が起こらなければ、能力や意見が進歩しなくなり、成長がストップしてしまいます。

たとえば、プレゼン能力に自信があるチームリーダーが、自分のプロジェクトチームに自分よりも能力が高い人間を採用しなかった場合、競争の機会を逃し、自分の成長を止めてしまいます。

自分のプライドを守ることは一時の満足に過ぎません。

それよりも、社会的比較バイアスを捨てて、ライバルと切磋琢磨することが、長い目で見れば本人のためになるでしょう。

まとめ

今回は、自分が高い評価を得ている分野で、自分の相対的優位を保とうとする“社会的比較バイアス”についてご紹介しました。

社会的比較バイアスは、認知バイアスの中でもかなり新しく、あまり研究がなされていません。

今後、新しく社会的比較バイアスの研究が追加されたら、記事を更新していこうと思います。

*1:L. Festinger, A theory of social comparison processes, Human Relations, 7 (1954) 117-140.

*2:S.M. Garcia, H. Song and A. Tesser, Tainted recommendations: The social comparison bias, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 113 (2010) 97-101.

*3:N. Branden, What is self-esteem?, Internarional Conference on Self-Esteem, Asker, Oslo, Norway, Augast 1990.

*4:X. Chen and S.S. Komorita, The effect of communication and commitment in a public goods social dilemma, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 60 (1994) 367-386.

【注意バイアス】の重要な実験パラダイム3選

人は、何かに対して注意が向きやすくなる性質を持っています。

たとえば、

・クモ嫌いの人が、視界を一瞬だけ横切った小さな黒いモノに過敏に反応する

・禁煙中の人が、タバコという言葉やタバコに似た形に敏感になる

これらを、注意バイアス(バイアス:思考の偏り)といいます。

本記事では、注意バイアスの定義や注意バイアスを測定するための実験パラダイムについて、専門的かつ分かりやすく解説していきます。

◇ 出てくる用語・簡単まとめ ◇
注意バイアス
英語でAttentional bias
特定の外部刺激に注意が向かいやすくなること
脅威に対する注意バイアスと報酬に対する注意バイアスに大別されるが、脅威に対して使われる場合が多い
脅威に対する注意バイアス
英語でThreat-related attentional bias
脅威刺激(例:クモ、怒った顔)に対して注意が向かいやすくなること
特に不安な気分のときに強く現れる
別名、不安バイアス脅威バイアスともいう
報酬に対する注意バイアス
英語でSubstance-related attentional bias
報酬刺激(例:タバコ、酒)に対して注意が向かいやすくなること
特にその報酬の渇望状態のときに強く現れる

注意バイアス

注意バイアスの発見

1986年に心理学者コリン・マクリードらは、

「不安を持つ人たちは、脅威を表す単語に対して注意が向かいやすくなる」

ということを発見し、彼らはそれを『注意バイアス』と呼びました。(参考:MacLeod et al., 1986*1

その後、単語だけでなく、怒った人の顔写真やクモの絵といった脅威刺激にも注意が向かいやすくなることもさまざまな研究から実証されています。

つまり、注意バイアスとは、

「気分が不安なときには、怖いものや危険なものへ注目しやすくなる」

ということです。

たとえば、

  • お化け屋敷でビクビクしているときは、視界の隅をわずかに動くものにさえ敏感に反応する
  • 大学受験の勉強で精神的に不安になっているときは、「落ちる」という言葉にとても過敏になる
  • 虫が大嫌いな人は、小さな虫でさえすぐ気づく

このように、精神的に疲れている人や何かの恐怖症の人などの不安状態の強い人は、危険を察知するセンサーが過敏に働くのです。

◇ ポイント! ◇
その後の研究で、脅威だけでなく報酬(食べ物や嗜好品)へも注意バイアスが働くことが発見されました。
たとえば、禁酒中の人は、お酒に関する刺激に注意が向きやすくなります。
報酬に対する注意バイアスの詳細は、本記事の『7. 報酬刺激への注意バイアス』までお進みください。

注意バイアスの特徴

脅威に対する注意バイアスに関する実験で、次のようなことが明らかになっています。

・軽微な危険にも注意を向ける

・脅威をすばやく見つける

・脅威を見ると、少しの間フリーズし、目が離せなくなる

・フリーズの後、今度は急速に目を背ける

・不安な気分のときに注意バイアスが強くなる

もしも部屋の中で、あの黒光りする虫を発見したら、上記のような反応を取るのではないでしょうか?

注意バイアスの実験パラダイム3選

注意バイアスがどれだけ大きいかを調べるために多くの研究者がさまざまな方法を開発してきました。

代表的なものに

  • 情動ストループ課題
  • プローブ検出課題
  • キューイング課題

これら3つを詳しくご紹介しましょう。

情動ストループ課題

情動ストループ課題とは?

注意バイアスの測定方法として最も有名なものです。

まず、情動ストループ課題の被験者には、色のついた単語が提示されます。

たとえば、ピンク色で「苦痛」という文字が表示されます。

被験者は単語の意味を無視して、何色かをできるだけ早く答えなくてはなりません。

このとき、中性語(例:住宅、通貨、森林)に比べて脅威語(例:自殺、恐怖、憂鬱)のいろの回答時間が長いほど、脅威に対して注意が大きく向けられていることを表しています。

要するに、脅威に対する注意バイアスが大きいということです。

(参考:Williams, Mathews & MacLeod, 1996*2

プローブ検出課題

プローブ検出課題とは?

プローブ検出課題は、1986年に心理学者コリン・マクリードらが行った実験です。

プローブ検出課題では、まずコンピューターのモニターの上半分と下半分に、それぞれ脅威語と中性語のペアが0.5秒間表示されます。

その後、2つの単語は消えて、代わりにモニターの上か下のどちらか一方に、小さな点が出現します。

被験者は、手元のボタンで、できるだけ早く上か下かを回答します。

注意バイアスが大きい場合は、モニター上の脅威語の方に注意が向いているので、脅威後の位置に点が出てきたときにすばやく反応できます。

反対に、モニターの中性語の位置に点が出てきたときは、反応が遅れてしまいます。

この時間の差が大きいほど、注意バイアスが大きいことを表しています。

(参考:前述のMacLeod et al., 1986)

キューイング課題

キューイング課題とは?

キューイング課題は、心理学者エレーヌ・フォックスらが実施した注意バイアスの測定法です。

このキューイング課題は、「注意バイアスが大きい人は、一旦脅威刺激を目視すると、しばらくの間目が離せなくなる」という仮説に基づいて行われました。

まず、モニター画面の中央に単語が提示されます。

その0.6秒後、単語の上下左右のどこか一か所に一瞬(0.05秒)だけ「X」か「S」よ文字が現れます。

被験者には、どの位置に「X」もしくは「S」が出現したか、すばらく答えてもらいます。

このとき、脅威語に視点がロックされて回答に時間がかかれば、注意バイアスが大きいということになります。

(参考:Fox et al., 2001の実験5*3

ヒトが注意バイアスを持つ理由

なぜ人は不安になると脅威に対して注意を向けやすくなるのでしょうか?

実は、注意バイアスを持つのはとても自然なことです。

なぜなら、不安な状態のときに、脅威に注意を払うことは、危険から身を守るためにとても重要だからです。

たとえば、原始の時代、茂みに隠れている猛獣をいち早く発見することは生死に直結したことでしょう。

つまり、注意バイアスは人間が生存するための必要なシステムであると考えられます。

注意バイアスが起こるメカニズム

注意バイアスの最も重要な特徴は、脅威に対して一時的に視線が釘付けになってしまうことです。

ではどうして脅威刺激から目線を逸らすことができなくなってしまうのでしょうか?

心理学者エレーヌ・フォックスらは、動物ならみな持っている「凍りつき反応」が原因ではないかと考察しています。

ほとんどの動物は、危険と突然遭遇したときに一瞬身動きが取れなくなってしまいます。

これを凍りつき反応といいます。

たとえば、いきなりライオンと鉢合わせた動物は、短い間フリーズします。

これはなぜかと言うと、捕食者を前にしてアレコレ考えすぎたり、余計な動きをしたりすることは、かえって危険だからです。

つまり、注意バイアスによって脅威刺激から少しの間目線が離脱できないのは、動物の自然な反応というわけです。

注意バイアスのデメリット

心理学者エレーヌ・フォックスらによると、強すぎる注意バイアスはストレスを増大させる可能性があると指摘しています。

注意バイアスが大きいと、ストレスの原因である脅威刺激に長時間意識を集中させることになります。

このことが、さらなる不安の維持や不安の増大につながる恐れがあります。

一方、脅威からすばやく目を逸らすことができる人は、不安から来るストレスを抑えることができます。

このように、注意バイアスが強いことは、メンタルヘルス的にあまり良くないと言えるでしょう。

報酬刺激への注意バイアス

心理学者コリン・マクリードらによって注意バイアスが提唱されてから、さまざまな研究が行われ、今では食べ物やアルコール、タバコといった報酬刺激への注意バイアスも確認されています。

たとえば、禁煙中の人はタバコに関係のあるものに注意が向かいやすくなります。

現在は、脅威刺激への注意バイアス報酬刺激への注意バイアスを区別するために、

前者をThreat-related attentional bias

後者をSubstance-related attentional bias

と呼んでいます。

報酬に対する注意バイアスの特徴は、

・身体が欲しているものに注意を向けやすくなること

・渇望状態のときに強く現れること

です。

これは、脅威への注意バイアスと同様にヒトの生存本能と言えます。

なぜなら、渇望状態のときに、食べ物や嗜好品に注意を向けることは、食料を確保し生き残るために必要なことだからです。

(参考:Field & Cox, 2008*4; Zvielli et al., 2015*5

最後に

今回、特定の外部刺激に対して注意を払いやすくなる性質「注意バイアス」についてご紹介しました。

人は常に世の中の膨大な情報にさらされています。

その中から本当に必要な情報を抜き取ることは容易ではありません。

注意バイアスは、たくさんの視覚情報の中から生き残るために必要な情報だけをピックアップしてくれる便利なツールなのかもしれません。

*1:C. MacLeod, A. Mathews, and P. Tata, Attentional bias in emotional disorders, Journal of Abnormal Psychology, 95 (1986) 15-20.

*2:J.M.G. Williams, A. Mathews and C. MacLeod, The emotional Stroop task and psychopathology, Psychological Bulletin 120 (1996) 3-24.

*3:E. Fox, R. Russo, R. Bowles and K. Dutton, Do threatening stimuli draw or hold visual attention in subclinical anxiety?, Journal of Experimental Psychology: General, 130 (2001) 681–700.

*4:M. Field and W.M. Cox, Attentional bias in addictive behaviors: A review of its development, causes, and consequences, Drug and Alcohol Dependence, 97 (2008) 1-20.

*5:A. Zvielli, A. Bernstein and E.H.W. Koster, Temporal dynamics of attentional bias, Clinical Psychological Science, 3 (2015) 772-788.

情動バイアスとは?定義・特徴・意味を詳しく解説

  • 子供が生まれた時の喜び
  • 大事な人を失った時の悲しみ
  • 家族といられることの幸せ

これらの感情の強さはみな均しいのでしょうか?

難しいようで、答えは簡単。

実は、悲しみの感情の方が心理的に強いインパクトを与えます。

人は誰でも、外からの感情を揺さぶるさまざまな刺激を、無意識に大きくしたり、小さくしたりしているのです。

本記事では、そのような人の感情の偏り「情動バイアス」について詳しく、かつ分かりやすく解説していきます。

◇ 専門用語・簡単まとめ ◇
『感情』
「英語でAffectやFeeling」
喜び、怒り、悲しみといった人間の主観的な感情
『情動』
「英語でEmotion」
あくまでも外からの刺激による身体の生理反応であり、脈拍の増加や顔の表情の変化といった客観的にわかる感情
『感情(情動)刺激』
「英語でAffective stimuliやEmotional stimuli」
感情を生じさせるような刺激
たとえば、蜘蛛を見て怖いと感じたならば「蜘蛛」が情動刺激
『情動バイアス』
「英語でEmotional bias」
外から情動刺激を受け取るときに、恐怖や快楽といった刺激の種類によって、心の反応の大きさが変わること。
情動バイアスには、ネガティビティバイアスとポジティビティオフセットの2つの要素がある。(バイアス:偏り)
『ネガティビティバイアス』
「英語でNegativity bias」
喜びなどのポジティブな情動刺激よりも、恐怖などのネガティブな情動刺激に強く反応する傾向
『ポジティビティオフセット』
「英語でPositivity offset」
ネガティブな情動刺激よりも、ポジティブな情動刺激に強く反応する傾向。ネガティビティバイアスの逆。(オフセット:ずれ)

情動バイアス

2種類の感情-ポジティブとネガティブ

人の感情は、驚くほど多彩です。

たとえば、喜びや恐れ、悲しみ、戸惑い、羞恥など、私たちは毎日様々な感情を抱きながら生きています。

しかし、情動と注意の研究機関CSEAの所長ピーター・ラングらによると、これらの感情はすべて「ポジティブ」と「ネガティブ」2種類に分けられるとされています。(参考:Lang et al., 1998*1

たとえば、

ポジティブ:快、喜び、楽しみ、興味、希望、愛情、安心、満足など

ネガティブ:不快、恐怖、怒り、悲しみ、罪悪、嫌悪、不安、羞恥など

そして、ポジティブな感情とネガティブな感情には違いがありますが、ポジティブな感情同士やネガティブな感情同士は似ていると考えられています。

たとえば、「嬉しい」と「怖い」は遠い感じがしますが、「嬉しい」と「楽しい」は近い感覚があると思います。

このように、感情はポジティブとネガティブに大別できるのです。

情動バイアスの定義

西南大学心理学部の袁加锦(イェン・ジアジン)教授は、情動バイアスのことを次のように定義しています。

情動バイアスとは『人が情動刺激を非対称に処理すること』である。(参考:Yuan et al., 2019*2

難しいので、わかりやすく言い換えると、

人は、恐怖、喜び、怒りといった情動刺激を感じるときに、その感情の種類によって身体の反応の強さが異なるということです。

つまり、さまざまな感情は平等に感じているわけではなく、不釣り合いの状態なのです。

具体的に言うと、人は嬉しさや愛情などポジティブな感情よりも、恐怖や苦悩などネガティブな感情に、強い衝撃を受けます。

また、状況によってはその逆のことも起こり得ます。

たとえば、

・小さい頃よく遊んだ公園で、楽しく遊んだ記憶よりも、ブランコから落ちて大怪我した記憶の方が鮮明に思い出せる

・卒業アルバムを見ていると、無表情の友達よりも、笑顔で写っている友達に視線が行きやすい

というように、強い感情がともなうような経験や出来事は、心に強い印象を与えますが、ポジティブかネガティブかによって印象の強さが変わるのです。

情動バイアスの2つの特徴

イェン・ジアジン教授は、情動バイアスには2つの要素があり、

ネガティブな感情が勝る傾向

『ネガティビティバイアス』

ポジティブな感情が勝る傾向

『ポジティビティオフセット』

から成ると述べています。

その2つの側面について説明します。

ネガティビティバイアス

ネガティビティバイアスとは、ポジティブな情動刺激よりもネガティブな情動刺激に大きく影響される傾向のことです。(参考:Ito & Cacioppo, 2005*3

言い換えると、人は、ポジティブな感情をもたらすものよりも、それと同じ大きさのネガティブなものに強く反応するのです。

たとえば、ジャングルを歩いていたら、毒蜘蛛とリンゴを同時に見つけました。

あなたならどうするでしょうか?

おそらく逃げたい気持ちでいっぱいでしょう。

これは、リンゴよりも毒蜘蛛という脅威に強く反応した証拠です。

このようなネガティビティバイアスの傾向は日常生活でも垣間見られます。

たとえば、仕事の成果を上司Aからは褒められたけど、上司Bからは叱られたと想像してみてください。

その日の帰り道は、上司Bから怒られたことで頭がいっぱいになってしまうでしょう。

このようにネガティブなことは、ポジティブなことよりも心に強い影響を与えるのです。

ポジティビティオフセット

人は弱い刺激のときには、ネガティブな刺激よりもポジティブな刺激に強く反応する傾向があります。これをポジティビティオフセットといいます。(参考:前述のIto & Cacioppo, 2005

つまり、受け取る刺激の強さが弱ければ、ネガティビティバイアスとは反対の現象が起こるということです。

たとえば、毒蜘蛛なら逃げるけど、小さな昆虫なら興味本位で近づくこともあるでしょう。

このように、小さな刺激であれば、人は新しい刺激に接近する傾向があるのです。

なぜバイアスではなく『オフセット』なのか?

アメリカの心理学者エド・ディーナー&キャロル・ディーナー夫妻によると、

人はデフォルトの感情状態はゼロではなく、わずかにポジティブになるように作られているそうです。(参考:Diener & Diener, 1996*4

つまり、ポジティビティオフセットは「偏り=バイアス」というよりかは、ゼロからの「ずれ=オフセット」というニュアンスに近いということです。

情動バイアスのグラフ化

情動バイアスのグラフ

ネガティビティバイアスとポジティビティオフセットをグラフに表すとこのようになります。(参考:Cacioppo & Berntson, 1994*5

グラフを見ると分かるように、刺激が弱いときにはポジティビティオフセットになっていて、刺激が強くなってくるとその傾向は反転してネガティビティバイアスとなります。

しかし、ポジティブとネガティブが反転する明確な刺激の大きさはわかっていません。

なぜなら、刺激への反応は、さまざまな状況に応じて変化するからです。

たとえば、水源にワニがいたら、普通なら水の確保を諦めますが、もうノドがカラカラで死にそうなときは、ワニがいても水を飲みに行くかもしれません。

また、情動バイアスには個人差があることも、閾値を一概に決めることができない理由の一つです。

たとえば、蜘蛛を見ると怖がる人がいる一方で、何も感じない人もいます。

いずれにせよ、一般的には、刺激が比較的弱めのときにはポジティビティオフセット、強めのときにはネガティビティバイアスということは明らかです。

情動バイアスの重要性

情動バイアスにはどのような意味があるのでしょうか?

ネガティビティバイアスやポジティビティオフセットを持っていると、人間にとって何かメリットがあるのでしょうか?

情動バイアスの意義を考える前に、まずは感情の機能についてご説明します。

(参考:Norris et al., 2010*6

感情の機能とは?

「感情は人類が長い進化の歴史の中で編みだした生存戦略の一つである」という考え方があります。

少し昔の時代に遡ってみましょう。

太古の人類は、外部の刺激を

  • 友好的か敵対的か
  • 食べ物か危険物か
  • 有益か有害か

という2つのカテゴリーに、即座に分類し、行動しなければなりませんでした。

なぜなら、そういった外部からの刺激に対する判断を誤ることは、死に直結したからです。

そこで、人は外部からの刺激に対して

「ポジティブ」=「接近」

「ネガティブ」=「回避」

という行動をとるようになります。

つまり、正しい出力(行動)をするために、それに合った入力(情動)の情報もポジティブとネガティブの2種類に分ける必要があったのです。

たとえば、

嬉しい、楽しい、愛おしいなどのポジティブな刺激は「接近」

怖い、悲しい、苦しいなどのネガティブな刺激は「回避」

(ただし、「怒り」は接近志向の負の感情と言われています。)

これらを無意識に区別することは、昔の人類にとって生死に直結するとても重要なことでした。

なぜ人は情動バイアスを持つのか?

感情は、人が生き残るための機能であると説明しました。

では次は、なぜ情動バイアスが生じるのでしょうか?

具体的には、なぜ外部からの刺激が大きいときには、ネガティビティバイアスが働き、刺激が小さいときにはポジティビティオフセットが働くのでしょうか?

実はこの感情の偏りこそが、人類が生存するために欠かせなかった最強の武器なのです。

原始の時代、報酬刺激よりも嫌悪刺激を重視した方が、生存に関わる意味合いが強かったと考えられます。

なぜなら、食べ物を見つけることよりも、外敵から逃げることを優先した方が生き残れたからです。

たとえば、水源を探すよりも、目の前の猛獣から逃げることの方が、より先決でしょう。

つまり、ネガティビティバイアスが働くことで、人はまわりの危険を察知して、警戒したり逃避したりなどの防衛行動を取ることができたのです。

一方で、刺激レベルが低い日常的な状態では、ポジティビティオフセットが働くことで、食べ物や仲間の探索をすることができました。

もしも、デフォルトの状態でもネガティビティバイアスが働いてしまったら、世界は危険だらけに見えてしまい、人は何も行動できなくなってしまうでしょう。

要するに、人は変化する環境へ柔軟に対処するためには、ポジティブとネガティブを天秤にかけて、刺激レベルに応じてどちらかに重きを置く必要があったのです。

それが情動バイアスというわけです。

まとめ

本記事では情動バイアスについて解説しました。

情動バイアスとは、外からの情動刺激に対して、ポジティブかネガティブを区別して、それぞれにん大きさの異なる反応を返すことでした。

そして、情動バイアスには2つの側面があり、

一つは、ネガティブな刺激に強く反応するネガティビティバイアス

もう一つが、刺激レベルが弱いときにはポジティブに反応しやすくなるポジティビティオフセット

でした。

*1:P.J. Lang, M.M. Bradley and B.N. Cuthbert, Emotion, motivation, and anxiety: Brain mechanisms and psychophysiology, Biological psychiatry 44 (1998) 1248-1263.

*2:J. Yuan, Y. Tian, X. Huang, H. Fan and X. Wei, Emotional bias varies with stimulus type, arousal and task setting: Meta- T analytic evidences, Neuroscience and Biobehavioral Reviews 107 (2019) 461-472.

*3:T. Ito and J. Cacioppo, Variations on a human universal: Individual differences in positivity offset and negativity bias, Cognition & Emotion 19 (2005) 1-26.

*4:E. Diener and C. Diener, Most people are happy, Psychological science, 7 (1996) 181-185.

*5:J.T. Cacioppo, G.G. Berntson, Relationship between attitudes and evaluative space: A critical review, with emphasis on the separability of positive and negative substrates, Psychological Bulletin, 115 (1994) 401-423.

*6:C.J. Norris, J. Gollan, G.G. Berntson, and J.T. Cacioppo, The current status of research on the structure of evaluative space, Biological Psychology, 84 (2010) 422-436.

『楽観主義バイアス』と『悲観主義バイアス』を具体例で詳しく解説

宝くじを買って、抽選までの間に

「当たるかなぁ!」

とドキドキして過ごしたり、

自分の子供の特技を見つけるたびに

「うちの子、将来有望だ」

と期待したりすることってありますよね?

このように、自分の良い未来の可能性を過大評価する傾向を、楽観主義バイアスといいます。

(バイアスとは、考え方が偏ることです。)

反対に、自分の悪い未来の可能性を過大評価する傾向は、悲観主義バイアスです。

本記事では、楽観主義バイアスと悲観主義バイアスについて、専門的かつ分かりやすく解説していきます。

楽観主義バイアスと悲観主義バイアス

楽観主義バイアスと悲観主義バイアスの定義

イギリスの名門大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの認知神経科学のターリ・シャーロット教授は、楽観主義バイアスと悲観主義バイアスを次のように定義しています。

この2つのバイアスは、これから起こるできごとへの”期待″と実際に起こる”事実″との差で決まり、期待が高ければ楽観主義バイアス、期待が低ければ悲観主義バイアスである。(参考文献:T. Sharot, The optimism bias, Current biology 21 (2011) R941-R945.)

つまり、将来を考えるときに、現実よりもポジティブな結果を期待する傾向が楽観主義バイアス、反対に、現実よりもネガティブな未来を想定する傾向が悲観主義バイアスということです。

たとえば、就職活動をしていて、面接を100社受けたとします。

そのうち10社から内定をもらいました。

もともと、「30社くらい受かるだろう」と多めに考えていたならば、それは楽観主義バイアスが働いていることになります。

一方で、「どうせ1社も受からない」と少なめに考えていたのであれば、悲観主義バイアスと言えるでしょう。

楽観vs悲観どっちが多い?

およそ80%の人に楽観主義バイアスがあると推定されています。(参考文献:前述のシャーロットの論文)

一方で、悲観主義バイアスを持つ人は意外と少数派です。

アメリカの心理学者ダニエル・ストランクらによると、重度のうつ病患者は悲観主義バイアスを持つ傾向があると言います。

また、軽度のうつ病患者には、どちらのバイアスもかかっていない傾向が見られると述べています。

(参考文献:D.R. Strunk, H. Lopez, R.J. DeRubeis, Depressive symptoms are associated with unrealistic negative predictions of future life events, Behaviour Research and Therapy, 44 (2006) 861-882.)

つまり、一般的な傾向として、

健常人 → 楽観主義バイアスが有利

軽いうつ → バイアス無し

重いうつ → 悲観主義バイアスが有利

ということです。

このように、楽観主義バイアスは多くの人に見られる人間の共通した本質ですが、悲観主義バイアスは限られていると言えるでしょう。

 

ネガティビティバイアスとは違うの?

悲観主義バイアスとネガティビティバイアスは同じような意味に思えますが、少し違います

悲観主義バイアスは、自分の将来に期待を持たないことです。

一方で、

ネガティビティバイアスは、ポジティブな情報よりもネガティブな情報から強い影響を受けやすいというバイアスです。

つまり、ネガティビティバイアスは過去や今起こったマイナスなことを、過度に大きく受け止めてしまうことです。

たとえば、昔やった恥ずかしい失敗を未だに忘れられないのはネガティビティバイアスの影響です。

自分はネガティブだなと思っている人は、このネガティビティバイアスの方だと考えられます。

要するに、悲観主義バイアスは未来をネガティブに考えることで、ネガティビティバイアスは過去や現在からネガティブな影響を受けることです。

ネガティビティバイアスについてもっと詳しく知りたければ、こちらの記事を参考にしてください。

daily-psychology.hatenablog.com

 

楽観主義バイアスの具体例

悲観主義バイアスと違い、楽観主義バイアスは多くの人に見られる性質です。

そのため、さまざまな場面でバイアスの影響を感じることでしょう。

いくつか具体例をご紹介します。

未来への過度の期待

まず、楽観主義バイアスが強い人は、ポジティブな出来事が起こる可能性を過大評価します。

たとえば、

  • 平均寿命よりも長生きすると考える
  • 自分の子供は平均よりも優秀に育つと思い込む
  • 良い企業に就職できると過度に期待する
  • 将来的にある程度出世できると思っている
  • 2分の1の確率は当たりそうな気がする

リスクの過小評価

また、楽観主義バイアスが強い人は、リスクを過小評価します。

たとえば、

・離婚したり、不仲になったりする可能性を低く見積もる

・交通事故に遭う可能性を低く見積もる

・癌などの深刻な病気に罹る可能性を低く見積もる

・テレビで報道されているような事故や犯罪は、自分には縁がないと思っている

このようなことを無意識に感じていたり、考えていたりする傾向があるのです。

ここで1つ考えてみてください。

あなたは、将来がんにかかると思いますか?

おそらく、ほとんどの人は「自分は大丈夫だろう」と考えているはずです。

しかし、国立がん研究センターの統計によると、

日本人が一生のうちにがんと診断される確率(2018年データ)

男性 65.0%(2人に1人)

女性 50.2%(2人に1人)

日本人ががんで死亡する確率(2019年データ)

男性 26.7%(4人に1人)

女性 17.8%(6人に1人)

出典:国立がん研究センター『最新がん統計』より

つまり、日本人の半分はがんにかかっています。

しかしながら、多くの人は楽観主義バイアスが働き、自分ががんになるリスクを体感的に低く見積もっています。

その証拠にこの数値を見てもなお、がんを他人事のように思ってるのではないでしょうか?

楽観主義バイアスが働く条件

楽観主義バイアスを持つ人は、四六時中楽観的なのでしょうか?

それは、違います。

楽観主義バイアスが働くためには、条件があります。

それは、これから起こるできごとを、自分が

に楽観主義バイアスは強まりやすくなります。

自分が状況をコントロールしているとき

ニューヨーク大学ジータ・メノン教授らは

「物事がある程度自分の思い通りにコントロールできるような状況では、楽観主義バイアスが強まる」(参考文献:G. Menon, E.J. Kyung, N. Agrawal, Biases in social comparisons: Optimism or pessimism?, Organizational Behavior and Human Decision Processes 108 (2009) 39-52.)

と主張しています。

たとえば、友人と2人でドライブに出かける状況を考えてみましょう。

きっと友人の運転よりも自分で運転しているときの方が、ずっと安心できるはずです。

これは自分で運転しているときに、楽観主義バイアスが働き、

「事故なんて起こさないだろう」

とリスクを少なく考えてしまうからです。

また、就職活動の例を考えてみると、やはり他人の合否より自分の合否の方が、より楽観的な結果をイメージするはずです。

このように、将来の結果を自分でコントロール可能な場合に、楽観主義バイアスは働くのです。

コントロールできると思い込んでいるとき

状況を自分でコントロールできなくても、楽観主義バイアスは働きます。

それは、自分でコントロールできていると錯覚しているときです。

前・ボストン連邦準備銀行研究部門の上級エコノミスト、現・ヘブライ大学准教授のアナット・ブラチャ氏は、

「コントロールの錯覚が影響している」(参考文献:A. Bracha, D.J. Brown, Affective decision making: A theory of optimism bias, Games and Economic Behavior, 75 (2012) 67-80.)

と指摘しています。

コントロールの錯覚とは、コントロール幻想ともいい、「自分の能力とは無関係なできごとでも、自分がコントロールしていると錯覚してしまう心理現象」です。

つまり、実際に自分がコントロールしていなくても、自分でそう思い込んでいれば、楽観主義バイアスが働くということです。

たとえば、懸賞や抽選に応募したときに、

「当選するかも」

と密かに期待するのは、コントロールの錯覚によって楽観主義バイアスが作用した結果です。

楽観主義バイアスが生じる原因

なぜ多くの人に楽観主義バイアスは働くのでしょうか?

前述のアナット・ブラチャ氏は、楽観主義バイアスが生じる要因として、次の3点を挙げています。

動機づけられた推論

楽観主義バイアスの生じる原因の一つに「動機づけられた推論」があります。

動機づけられた推論とは、「人々が自分の望みや欲求、好みに従って、偏って考えたり物事を判断したりすること」です。(参考文献:Z. Kunda, The case for motivated reasoning, Psychological Bulletin, 108 (1990) 480-498.)

確証バイアスなどと同じように、楽観主義バイアスもこの「動機づけられた推論」によって引き起こされていると考えられています。

たとえば、

これからあなたは就職活動を行う予定だとします。

当然、より良い企業に採用されたいと望んでいるはずです。

その願望があなたを楽観的にさせてしまうのです。

つまり、良い会社に入りたいという欲求から

「きっと複数の有名企業から声がかかるだろう」

と過度に楽観的に推測してしまうということです。

このように、自分の望む方向に無意識に偏って考える結果、楽観主義バイアスが生まれるのです。

能力仮説

楽観主義バイアスを生じる原因の一つに能力仮説があります。

能力仮説とは、「人は、自分が有能であると感じたり、知識があると感じたりする状況では、賭けることを好むが、そうでないときには賭けることを嫌う」というものです。この仮説は、1991年にヒースとトヴェルスキーにより提案され、立証されました。(参考文献:C. Heath, A. Tversky, Preference and belief: Ambiguity and competence in choice under uncertainty, Journal of risk and uncertainty 4 (1991) 5-28.)

つまり、自分が有能であると感じる状況では、楽観的になるということです。

たとえば、競馬を考えてみましょう。

競馬の初心者は、いきなり大金を賭けることはしないでしょう。

一方で、競馬の知識があり、何度も経験している人は、大した根拠もなしに「今回は勝てる」と大きく賭けることもあるでしょう。

つまり、経験者は勝率を楽観的に考えてしまうのです。

このように、能力仮説が楽観主義バイアスの引き金になっている場合があります。

利用可能性ヒューリスティック

楽観主義バイアスが発生する3つ目の理由は、利用可能性ヒューリスティックです。

人は、何かを判断するときに、思い出しやすい情報や利用しやすい情報を使って、すばやく意思決定することがあります。これを利用可能性ヒューリスティックといいます。ノーベル経済学賞を受賞したトヴェルスキー教授とカーネマン教授によって提唱されました。(参考文献:A. Tversky, D. Kahneman, Availability: A heuristic for judging frequency and probability, Cognitive psychology 5 (1973) 207-232.)

つまり、自分に関する情報は、他人の情報よりも思い出しやすくアクセスしやすいために、自分への楽観的な考えを合理化しやすくなってしまうのです。

たとえば、自分が会社を立ち上げた場合と他人が会社を立ち上げた場合を比べてみてください。

おそらく、自分の会社の方が成功すると楽観的に考えるはずです。

なぜなら、自分はこれまでどれだけの勉強をしてきたか、どれだけの能力があるかを知っているからです。

それらの情報量の差が、無意識に自分へ有利に偏って判断させてしまうのです。

その結果、楽観主義バイアスが生まれてしまいます。

バイアスを無くすべきか?

楽観主義バイアスや悲観主義バイアスは克服するべきなのでしょうか?

まず、悲観主義バイアスは積極的に無くすことをおすすめします。

なぜなら、悲観主義バイアスはうつ病の発症と密接に関わっているからです。

では、楽観主義バイアスはどうでしょう?

たしかに、楽観主義バイアスには将来のリスクを軽視するというデメリットがあります。

しかし、適度な楽観主義バイアスは人間の精神衛生上とても大切な役割をしています。

たとえば、将来がんになるかもしれないと毎日不安に思ったり、犯罪に巻き込まれるかもしれないと怯えながら生活したりしていては、いずれ心がすり減ってしまいます。

未来を少し明るく考えるぐらいが、心理的にちょうどいいのです。

まとめ

本記事では楽観主義バイアスと悲観主義バイアスについて記載しました。

内容をおさらいしますと、

<楽観主義バイアス>

自分の未来を楽観的に考える思考パターン

悲観主義バイアス>

自分の未来を悲観的に考える思考パターン