【ネガティビティバイアスとは?】定義・原因・具体例・克服法を分かりやすく解説
あなたは、過去にやってしまった失敗をふとした拍子に思い出して、嫌な気持ちになったことはありませんか?
また、同僚から言われた嫌な言葉がずっと気になってしまい、仕事が手につかなくなった経験はありませんか?
これは、人はポジティブな体験よりもネガティブな体験の方に大きく影響を受けるからです。
心理学では、これを「ネガティビティバイアス(バイアス:心の偏り)」と呼んでいます。
本記事では、ネガティビティバイアスの
・具体例
・克服法 など
について、いくつか論文をまとめましたので、分かりやすく解説していきます。
- 【定義】ネガティビティバイアスとは?
- 【原因】なぜネガティビティバイアスが働くのか?
- ネガティビティバイアスの具体例
- ネガティビティバイアスの社会生活への影響
- ネガティビティバイアスのメリットとデメリット
- どうすれば克服できるのか?
- まとめ
【定義】ネガティビティバイアスとは?
つまり、人は”うれしい”出来事よりも”嫌な”出来事の方がより強く心に残ってしまうということです。
例えば、あなたは次のような経験はありませんか?
- 友人から言われたムカつく言葉が何日も忘れられない。
- 褒め言葉よりも悪口の方に敏感に反応する。
- 過去の恥ずかしい思いをした失敗体験をときどき思い出す。
これらの例は、人が持つネガティビティバイアスが働いています。
このように、人はネガティブな情報の影響を強く受けてしまうのです。
【原因】なぜネガティビティバイアスが働くのか?
ネガティビティバイアスの起源は、我々の祖先にあると考えられています。
一説によると、人類の進化の過程で獲得した能力の一つであると言われています *2 *3 。
つまり、大昔の人間が生存競争を生き抜くためにネガティブバイアスが必要であったということです。
現代とは異なり、太古の人類は常に自然界からの脅威に曝されていました。そのような中で生き残っていくためには、危険に対して敏感であったり、失敗体験を強く記憶していたりする能力が必要不可欠であったのでしょう。
そして、自然選択の結果、ネガティビティバイアスを組み込んだ遺伝子が現代人にまで受け継がれてきたのです。
ネガティビティバイアスの具体例
ネガティビティバイアスは多くの人が持っているため、日常のあらゆる場面で垣間見ることができます。
どのような具体例があるか、見てみましょう。
【例①】批判に強く反応する
あなたが職場の廊下を歩いていました。
すると、自分の上司が誰かと会話をしていました。
上司は会話に夢中で、私に気づいておらず、
「部下の〇〇さん、最近仕事の進みが遅いんだよね」
という自分への批判的なコメントを話していました。
すると、今まで上司からもらった自分へのポジティブな評価はすべて消し飛んで、あなたの頭の中は、たった一つの批判的なコメントでいっぱいになってしまうでしょう。
【例②】嫌な記憶を繰り返し思い出す
あなたは子どものころ、公園の滑り台が好きで、よく遊んでいました。
しかし、あるとき誤って滑り台から転落して腕を骨折してしまいました。
おそらくあなたは、大人になっても公園の滑り台を見かけるたびに、転落したときの恐怖を思い出すでしょう。
【例③】恥をかいた経験が忘れられない
あなたの中学校では、毎年の学校行事で合唱コンクールがありました。
中学1年生と2年生のときに、大成功を収めていたあなたは、中学3年生の合唱コンクールを大変楽しみにし、練習も一生懸命していました。
しかし、本番で歌詞を間違えてしまい、みんなの前でとても恥ずかしい思いをしてしまいました。
あなたは将来、成功した中1・中2の合唱コンクールの記憶はほとんど残りませんが、大恥をかいた中学3年生の合唱コンクールだけは忘れることができないでしょう。
ネガティビティバイアスの社会生活への影響
日常生活だけでなく、ネガティビティバイアスは社会のさまざまな場面に大きな影響を与えています。
悪いニュースの視聴率が高くなる
例えば、「芸能人が結婚した」というニュースよりも「芸能人が不倫した」というニュースの方が、社会的な関心が高いでしょう。
また、殺人事件や災害のニュースは、多くの人から注目されます。
このように、人は悪いニュースを好んでみる傾向があり、各報道局もそれを活用してニュースコンテンツを作っているのです。
悪いウワサの方が広まりやすい
例えば、職場のウワサ話で、
「次の部長って、すごくやさしいらしいよ」
というポジティブな情報よりも
「次の部長って、すごく意地悪らしいよ」
というネガティブな情報の方が広まりやすい傾向があります。
これもネガティビティバイアスの影響で、その結果、悪い話の方が多くの人の興味を惹きつけるのです。
保守政党を支持しやすくなる
基本的に、政治的な思想は「保守派:伝統・安定重視」と「リベラル派:自由・革新重視」に分かれます。
ネガティビティバイアスが強い人は、保守的な考えになる人が多いと言われています。
その理由は、世の中が変化することへのリスクに過剰に反応するからです。だから保守的な立場になってしまいます。
ネガティビティバイアスのメリットとデメリット
社会が進歩していくについて、このネガティビティバイアスは、自然の驚異から身を守るという本来の意味を失いつつあります。
現代社会では、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
【利点①】危険を予測して回避できる
自然の驚異が少なくなったとはいえ、現代にもさまざまな危険が潜んでいます。
例えば、
・交通事故
・ネット社会でのトラブル
・詐欺事件
ネガティビティバイアスを持つ我々は、事前に体験したネガティブな出来事が蓄積されやすいと言えます。そのため、その経験を活かして次に起こりうる悪い事態への対処法もある程度予測し、回避することができるでしょう。
【利点②】モチベーションを高められる
人はネガティビティバイアスの影響により、「何かを得る」という期待感より「何かを失う」という恐怖心を動機とした方が、その時のモチベーションを高められると言われています。
例えば、中国の逸話が由来のことわざ「背水の陣」は、ネガティビティバイアスが関係していると考えられます。
中国(漢の時代)の武将・韓信は、戦のピンチの場面であえて川を背に陣を取り、兵士たちが後ろに下がれば命を失うという状況を作りました。すると、兵士たちは決死の思いで戦い、敵兵を見事倒すことができたそうです。
「命を失う」というネガティブな気持ちが、兵士たちのモチベーションを高めたのでしょう。
【欠点①】人を平等に評価できない
ネガティビティバイアスが強いと、人を評価するときにネガティブな情報を重視してしまいます。その結果、その人の良い面を軽視してしまい、人を平等に評価できなくなってしまいます。
また、自分が他人から評価を受けるときもネガティブな情報が強調されてしまうため、注意が必要と言えるでしょう。
【欠点②】人間関係を悪化させる
ネガティビティバイアスが強い人は、初対面の人と会うときに、ネガティブなことを考えてしまう傾向にあります。
例えば、
・性格きつい人だったら嫌だなぁ。
・嫌なこと言われたらどうしよう。
・うまく商談できるか不安だなぁ。
このようなネガティブな考えが増幅されると、いざ会ったときに敵対的に身構えてしまう場合があります。
その結果、初対面の相手に悪印象を抱かせてしまうかもしれません。
どうすれば克服できるのか?
ネガティビティバイアスは、大昔の人々にとっては危険から身を守る重要な能力だったかもしれません。
しかし、安全な暮らしが保障されている現代人にとっては、むしろデメリットの方が大きくなっていることでしょう。
では、どのように克服すれば良いのでしょうか?
ポジティブシンキング
悪い出来事が起こっても悲観的に考えるのではなく、意識的にポジティブな側面を探してみましょう。
例えば、職場の上司から自分の勤務態度について注意を受けてしまっても、
- 私の将来のためを思って叱ってくれたのだろう
- 今のうちに自分の悪いところが気付けて良かった
などと、少し無理してでもポジティブに考えるように心がけてください。
そうすれば、自ずと前向きな気持ちになれるでしょう。
気分転換をする
ネガティブな考えで頭がいっぱいになってしまったら、思い切り気分転換をしましょう。
例えば、
- 好きな音楽を聴く
- 緑があふれる公園を散歩する
- 買い物にでかける
現実逃避と捉えられるかもしれませんが、気持ちをリフレッシュすることは、心にとってとても大切なことです。
気分転換することで、頭の中の悪いイメージを消してしまいましょう。
起こった出来事をネガティブだと決めつけない
ネガティビティバイアスが強い人は、何か悪い状況に陥ったときに、曖昧な憶測を「100%そうだ」と断定してしまいがちです。
例えば、
- さっき友達がこっち見ながらコソコソ話してた。絶対私の悪口言ってる。
- 告白なんてしても、どうせ失敗するに決まってる。
- 面接中に失礼なこと言ったせいで、絶対落とされる。
これらの出来事は、本当に「絶対」だと言い切れますか?
だいたいの出来事は、100%断言することはできません。曖昧な出来事がほとんどです。
しかし、人は、曖昧な状況のときは悪い方に考えてしまいがちです。
だからこそ、もう一度起こった出来事をよく考えて、「本当に100%断言できるのか?」と自分に質問してみてください。
もし100%と言い切れないのであれば、もっとポジティブな別の可能性を考えてみてください。
気持ちが楽になるはずです。
誰かに話す
もし、悪いことが起こってしまったら、思い切って誰かに相談してみましょう。
自分の出来事を客観的に見てもらうことで、新たな側面が発見できるかもしれません。
また、自分が思っているほど、起こったことが重要ではないということに気付くかもしれません。
ぜひ友人や家族に勇気を持って話してみてください。
まとめ
本記事では、ネガティビティバイアスの
- 定義
- 原因
- 具体例
- 社会への影響
- メリットとデメリット
- 克服法
についてご紹介しました。
簡単にまとめますと以下のとおりです。
嫌な記憶がいつまでも残りやすい
恥をかいた経験が忘れられない
悪いウワサは早く広まる
政治思想が保守的になる
モチベーションを高められる
人を平等に評価できない
参考文献
*1:P. Rozin, E. B. Royzman, Negativity bias, negativity dominance, and contagion, Personality and Social Psychology Review, 5 (2001), 296−320.
*2:J. T. Cacioppo, G. G. Berntson, The affect system: Architecture and operating characteristics, Current directions in psychological science 8 (1999) 133-137.
*3:A.Vaich, T.Grossmann, A. Woodward, Not all emotions are created equal: the negativity bias in social-emotional development, Psychological bulletin 134 (2008) 383.
*4:S. Stuart, P. Fournier, L. Nir, Cross-national evidence of a negativity bias in psychophysiological reaction to news, Proceedings of the Narional Academy of Sciences 166 (2019) 18888-18892.
*5:K. Bebbington, C. MacLeod, T.M. Ellison, N. Fay, The sky is falling: evidence of a negativity bias in the social transmission of information, Evolution and Human Behavior 38 (2017) 92-101.
*6:J. R. Hibbing, K. B. Smith, J. R. Alford, Differences in negativity bias underlie variations in political ideology, Behavioral and brain sciences 37 (2014) 297-307.