社会的望ましさバイアスと何か?意味と具体例を詳しく紹介
これらの行動は、自分をできるだけ良く見せようとする人間の本質からきています。
そして、このように相手から良く思われるように嘘をついたり、イメージが悪くなるような回答を避けたりする心理傾向を『社会的望ましさバイアス(バイアス:偏り)』と言います。
つまり、社会的望ましさバイアスとは、望ましいことはオープンにするけれど、後ろめたいことは隠す傾向のことです。
本記事では、
どのような要因から生じるのか?
どうすれば軽減できるのか?
どんな具体例があるのか?
などについて専門的かつ分かりやすく解説していきます。
- なぜ人は嘘をつくのか?
- 社会的望ましさバイアスとは何か?
- 社会的望ましさバイアスの具体例
- コロナ禍での社会的望ましさバイアス
- 誰に報告するかで嘘の仕方が変わる
- 無意識か意図的か?
- 社会的望ましさバイアスを生む3つの要因
- "脱"社会的望ましさバイアスのテクニック
なぜ人は嘘をつくのか?
おそらく、この世で嘘をついたことのない人間なんて赤ちゃんだけでしょう。
それでは、どうして人は嘘をつくのでしょうか?
一説によるとそれは、「恥ずかしい」や「情けない」といったネガティブな感情を避けるためだと言いいます。(参考:Schaeffer, 2000*1)
たとえば、男性は、今まで1人も彼女がいないことを恥ずかしく思い、友人たちに「中学の時彼女いたよ。」などと数を水増しすることがあります。
一方で、女性は、今まで複数の男性とお付き合いしていたにも関わらず、気になる異性に対して「付き合った経験少ないんです。」と数を減らす方向へ嘘をつく傾向があります。
日常生活における軽微な嘘は、比較的低い認知負荷で済むと言います。
つまり、人は恥ずかしい思いを避けるためなら、簡単に嘘がつけるのです。
社会的望ましさバイアスとは何か?
マーケティングや消費行動についての研究を行なっているロバート・J・フィッシャーは社会的望ましさバイアスを次のように定義しています。
″社会的望ましさバイアス(social desirability bias)とは、他人に好ましいイメージを与えたいという欲求によって、社会的に望ましくなるように報告を歪めてしまうこと″(参考:Fisher, 1993 *2)
言い換えると、社会的望ましさバイアスは、自分をできるだけ良く見せようとして社会的に望ましい考えを誇張して言ったり、逆に望ましくない考えを過小に言ったりすることです。
たとえば、ボランティア活動に行ったことのある回数を水増しして報告したり、反対に、飲酒運転した回数をごまかしたりすることなどは、社会的望ましさバイアスが働いた結果です。
このように、他人から善人だと思われたいという気持ちから、人は社会的に望ましくなるような小さな嘘をついてしまうのです。
社会的望ましさバイアスの具体例
社会的望ましさバイアスは、望ましいことだけをオープンにして、やましいことを隠す傾向のことです。
このバイアスは、私たちが社会生活を送る上で必ず発生します。
どのような場面で生じるか、具体的な例でご紹介します。
- 本当は生活保護をもらっているのに、「働いている」と知り合いや親族に嘘をつく
- 自分の彼女に、大学時代にしていたパチンコやギャンブルのことを隠す
- 健康診断の時に、医師から「週にどれくらい運動していますか?」と尋ねられ、少し鯖を読む
- 選挙の投票に行った回数を盛って報告する
- 上司は仕事内容を報告するときに、良い成果だけを伝え、悪いことは隠す
- 離婚調停で、お互い自分に有利な情報はしっかり主張するが、不利な情報はあまり言わない
これらはすべて社会的望ましさバイアスが作用した行動です。
コロナ禍での社会的望ましさバイアス
コロナが陽性となり、保健所にこれまでの行動履歴を自己申告するときに、望ましい行動だけを申告し、後ろめたい行動は申告しないことが問題となっています。
たとえば、自宅で大人しくしていたことはしっかり報告しますが、陽性が判明する前日に飲み会をしていた事実は隠す傾向にあります。
このように、社会的望ましさバイアスの悪い面がコロナ禍において顕著に現れています。
誰に報告するかで嘘の仕方が変わる
社会的望ましさバイアスの方向性は、報告する人によって変わります。
これはどういうことかと言うと、
たとえば、昔少し調子に乗ってタバコを1回だけ試しに吸った経験があるとします。
それだけなのに、同僚や後輩には
「昔、タバコ吸ってたんだよね〜」
と盛って自慢するでしょう。
一方で、学校の先生や会社の上司、結婚相手の両親などには
「タバコは吸ったことありません」
と1回程度の喫煙の経験なら平気で無かったことにするでしょう。
このように、相手の立場によって何が社会的に望ましいかは違っており、それによって嘘の方向性が変わるのです。
無意識か意図的か?
多くの認知バイアスは無意識下で働くと言われています。
では、社会的望ましさバイアスも無意識に働くのでしょうか?
それとも意図的な嘘なのでしょうか?
社会心理学者トーマス・ホルトグレーブスによると、社会的望ましさバイアスは完全に無意識ではなく、少なくともある程度は意図的なものだと考えられているようです。(参考:Holtgraves, 2004 *3)
具体的に言うと、相手に好印象を与えたいという意図的な印象操作と、無意識に自分を騙す自己欺瞞が混在しています。
自己欺瞞の説明を深掘りすると、まず質問を受けた者は、社会規範に則った肯定的な自己イメージを思い浮かべます。
そのイメージ上の自分と現実の自分にギャップ(認知的不協和)があれば、自分自身を騙して、理想のイメージに近づけようとするのです。
これが自己欺瞞です。
まとめると、社会的望ましさバイアスは、印象操作と自己欺瞞の2つの面があるということです。
社会的望ましさバイアスを生む3つの要因
社会的望ましさバイアスは誰にでも働きます。
意思決定行動や経済の研究をしているドイツ人科学者フォルカー・ストッケは、社会的望ましさバイアスを発生させる3つの要因を提唱しています。(参考:Stocké, 2004 *4)
それが、
- 承認欲求が強いこと
- プライバシーが保護されていないこと
- 望ましいと感じる感覚を持っていること
それでは、詳しくご説明します。
承認欲求が強いこと
社会的望ましさバイアスが生じる条件の1つに承認欲求の強さが挙げられます。
人には多かれ少なかれ
- 他者から認められたい
- 否定されたくない
という承認欲求があります。
強い承認欲求によって、自分の本当の考えを隠して社会的に望ましい考えを伝えようという行為をするようになるのです。
たとえば、過去に友達をいじめていたことがあるにも関わらず、「いじめは良くない」と矛盾する主張したり、昔タバコを吸っていたことがあるのに、「吸ったことない」と嘘ついたりするのは、他人から承認されたいからです。
このように、承認欲求によって社会的望ましさバイアスが生まれるのです。
プライバシーが保護されていないこと
たとえ、承認欲求が強くても、誰にも見られていなければ、社会的望ましさバイアスは発揮できません。
つまり、″誰かに見られている″=″プライバシーが保護されていない状況″で、社会的望ましさバイアスは強くなります。
具体的には、
- アンケート形式で質問に回答するか
- インタビュー形式で質問に回答するか
これらを比較したときに、インタビュー形式の方が、社会的に望ましい回答をする傾向が強くなります。
これはインタビューだと、誰かに見られていると感じるからです。
見られていると、承認欲求を満たそうとして「社会的に望ましいことを言わなきゃ」と考えます。
一方で、アンケート形式では自分で用紙に記入するだけなので、誰にも見られません。
見られていないと、社会的に望ましい回答をしても承認欲求を満たすことができないため、正直なことを記入する傾向が強まります。
このように、自分の回答がオープンになっていると社会的望ましさバイアスが強まり、自分の回答が秘匿になっていると社会的望ましさバイアスは弱まるのです。
望ましいと感じる感覚を持っていること
望ましいと感じる感覚が無ければ社会的望ましさバイアスは発生しません。
そして、何について社会的に望ましいと感じるかは個人差があります。
たとえば、日本人は他人の家で食事を振る舞われた時、
A:残さず食べる
B:少し残す
の選択肢のうち、大多数の人がAの方が社会的に望ましいと考えるでしょう。
一方で、中国人はBの選択肢を社会的に望ましいと考えるようです。これは、食事を振る舞ってくれた方に「料理が足りなかったかな」と思わせないためだそうです。
この他にも、第3の意見として、どちらの選択肢も望ましさは同じだと考える人もいるでしょう。
このように人によって望ましいとされる行動は異なり、望ましいと思わなければバイアスはかかりません。
そして、その望ましさの信念に応じて社会的望ましさバイアスの方向性や大きさが変わってくるのです。
"脱"社会的望ましさバイアスのテクニック
相手に何か質問をしたときに、正直な回答を求めるなら、ぜひ次のようなテクニックを使ってみてください。
匿名を約束する
ロバート・J・フィッシャー(1993)の研究によると、匿名が保証されている状況では、人は正直な回答をしやすくなるといいます。
つまり、逆に言うと実名が公開されたり、個人情報と結びつけられたりするようなときは、社会的望ましさバイアスが誘発されるということです。
なぜなら、匿名でないと、人は社会的な圧力を感じ、自分を良く見せようとするからです。
たとえば、アンケートで
「今まで万引きしたことがありますか?」
という質問をされたとしましょう。
もしも、実名で犯罪を告白したならば、
- 裏で罰則があるかもしれない
- バラされるかもしれない
- 嫌がらせを受けるかもしれない
という心理的な不安をずっと背負うことになります。
そのようなリスクを負いたくないので、人は社会的望ましさバイアスを働かせて嘘をつくのです。
ところが、匿名であれば、そのようなリスクを受けることはありません。
要するに、匿名にすることで心理的な安心感が生まれ、正直な発言をするようになるのです。
間接質問をする
同じくロバート・J・フィッシャーの研究で、間接質問によって社会的望ましさバイアスが軽減することが分かりました。
間接質問とは、主語を三人称にする質問方法です。
具体的に言うと、質問の際に
「あなたは・・・」
ではなく
「多くの人は・・・」
などと言い変えることです。
たとえば、あなたが男性で、とある女性の人から次のような質問をされたとしましょう。
直接質問「あなたは、育児は女性の仕事だと思いますか?」
間接質問「多くの日本人男性は、育児は女性の仕事だと思っていると感じますか?」
どちらが正直に答えやすいでしょうか?
明らかに間接質問の方が、正直に回答しやすいと思います。
これは、間接質問では、発言に自分の責任が乗っからないからです。
しかも、間接質問では、三人称で質問しているのに、無意識に個人の考えを述べさせることができます。
このように、間接質問は社会的望ましさバイアスを弱めてくれる効果があるのです。
機密性を保証する
社会心理学者エレノア・シンガーらによると、機密保持の保証をすることによって質問の回答率を高め、正直な回答を引き出しやすくなるといいます。(参考:Singer et al., 1995 *5)
具体的に言うと、アンケートの最初に
「個人情報を目的以外で使用しません」
などの文言を入れておくことによって、社会的にグレーな内容に踏み込んだ質問にも正しく答えてくれる可能性が高くなるということです。
たとえば、「あなたの情報は第三者機関に決して漏らしません」と書かれているといないとでは、安心感が雲泥の差ですよね?
つまり、機密性の保証が信頼感を生み、それが社会的望ましさバイアスの軽減につながるのです。
調査の重要性・科学性を強調する
社会学者アイヴァー・クランパルは、自身の論文のまとめに、調査の重要性や科学性を強調すると、正しい回答が得られるのではないかと述べています。(参考:Krumpal, 2013 *6)
つまり、質問の正当性を訴えかけることで、社会的望ましさバイアスを軽減させることが可能というわけです。
また、科学性を強調することによって、質問の目的が明確になり、安心感を生み出すことができます。
たとえば、「あなたの意見は、将来の科学の発展に貢献する非常に重要なものです。」と前置きされたら、正直な意見を言うべきだと考えるでしょう。
このように、質問の重要性や科学性を伝えることが、社会的望ましさバイアスを減少させる可能性があるのです。
*1: N.C. Schaeffer, Asking questions about threatening topics: a selective overview, In: A.A. Stone, C.A. Bachrach, J.B. Jobe, H.S. Kurtzman and V.S. Cain (Eds.), The Science of Self-Report: Implications for Research and Practice (1st), pp. 105-121. Psychology Press, New York, (2000)
*2:R.J. Fisher, Social desirability bias and the validity of indirect questioning, Journal of consumer research, 20 (1993) 303-315.
*3:T. Holtgraves, Social desirability and self-reports: Testing models of socially desirable responding, Personality and Social Psychology Bulletin, 30 (2004) 161-172.
*4:V. Stocké, The interdependence of determinants for the strength and direction of social disirability bias in racial attitude surveys, https://madoc.bib.uni-mannheim.de/2730/.
*5:E. Singer, D.R.V. Thurn, E.R. Miller, Confidentiality assurances and response: A quantitative review of the experimental literature, Public Opinion Quarterly, 59 (1995) 66-77.
*6:I. Krumpal, Determinants of social desirability bias in sensitive surveys: a literature review, Qual Quant, 47 (2013) 2025-2047.