ふむふむ心理学

ふむふむ心理学

バイアス教育と心理学のブログ

社会的比較バイアスとは?分かりやすく解説

人は無意識のうちに、自分と他人を比較しています。

たとえば、

  • 同期の〇〇さんってどれくらいのお給料なんだろう?
  • 〇〇さん家の子よりウチの子の方が頭良い!
  • かけっこで1位を取れた!うれしい!

人は誰かと比べることで、自分の力量を確かめているのです。

今回は、社会で自分と他人を比較するときに生じる認知バイアス社会的比較バイアス」について分かりやすくご説明します。

 

◇関連用語・簡単まとめ◇
〇社会的比較バイアス
(Social comparison bias)
自分を、自分よりも劣っている人と比較することで、自分の相対的な優位性を確保しようとする傾向。特に自分の得意な分野で、この傾向が強くなる。
〇社会的比較
(Social comparison)
社会や特定の集団の中で、自分を他人と比較すること。
〇社会的比較理論
(Social comparison theory)
社会的比較について理論的に説明したもの。この理論では、人は自分を評価したいという欲求を持っているとされており、その評価は自分と他人と比較することで行われると説明されている。
社会的ジレンマ
(Social dilemma)
個人が一番得する選択が、ある集団や社会全体の最適な選択とは言い切れないときに起こる葛藤。(ジレンマ:板挟み)

社会的比較バイアス

なぜ人は他人のことが気になるのか?

人は誰しも他人を気にしています。

たとえば、

  • 会社の同僚のお給料はどれくらいか?

  • みんなは結婚式のご祝儀をいくら包んだか?

しかし、これは裏を返せば、

  • 自分のお給料は高いのか?

  • 自分のご祝儀は適正な金額か?

ということを気にしていると言えます。

つまり、他人を気にしているように見えて、実は自分のことが気がかりなのです。

 

このような社会的比較について社会心理学者レオン・フェスティンガーは次のように言っています。

「人は自分自身を評価したいという欲求を持っており、その欲求を満たすために自分と他人を比較する。」

つまり、人は自分の能力や立ち振る舞いを正しく評価したいと思っており、そのために人と自分を比べるのです。

◇ポイント!◇
上記のような、社会の中で人と自分を比べることについての理論を「社会的比較理論」と言います。
(参考:Festinger, 1954*1

社会的比較バイアスとは?

社会的比較バイアスでテストの点数を比較

ミシガン大学の心理学者スティーヴン・M・ガルシア准教授らは、

「社会的比較バイアスとは、人は自分自身が高い評価を得ている分野では、自分の相対的優位性を保つために、自分よりも劣った人物を自分の比較対象として選ぶ性質である」

と定義しています。(参考:Grcia, et al., 2010*2

難しいので、別の言い方をすると、

人はすべての分野で他人よりも優位に立ちたいと思っているわけではありません。

自分のプライドがかかっている分野でのみ、人よりも優れていたいと欲するのです。

そして、そのような重要な分野では、優位性を確保するために、自分の引き立て役になる人物をそばに置きたがるということです。

たとえば、仕事にプライドを持っている人は、仕事量や質で自分よりも劣っている人と比較して、優越感に浸る場合があります。

これが社会的比較バイアスです。

社会的比較バイアスの実証

ガルシア准教授らは社会的比較バイアスを調べるために次のような実験を行いました。(参考:前述のGrcia, et al., 2010)

大学で架空の実験を企画し、被験者の大学生たちには、別の学生をその架空の実験のアシスタントとして選んでもらうように指示しました。その結果、数学が得意な学生は、自分のアシスタントとして自分よりも数学が劣っている学生を選ぶ傾向があることが分かりました。同様に、言語に強い学生は、言語が苦手な人をパートナーに選びました。逆に、数学が苦手な学生や言語が苦手な学生は、自分よりも数学や言語が得意な人をアシスタントに選ぶことに抵抗はないようでした。

この実験から、「誰かとチームを組むとき、人は自分の得意な分野の能力が自分よりも劣っている人物をチームメンバーに選びがちである」という結論が導き出されました。

社会的比較バイアスの具体例

社会的比較バイアスは、自分の得意な分野で、人との相対的優位を保ちたいと欲する傾向です。

多くの人が持っているとされているため、日常でもよく見受けられるでしょう。

たとえば、

  • 自分の容姿にプライドを持っている人が、合コンのメンバーを集まるとき、自分よりも顔の偏差値が低めな友人を誘う。

  • フットサルサークルで一番実力のあるチームリーダーが、チームの助っ人として自分よりも上手な人を呼ぶことをためらう。

  • パソコンが得意なことが強みの若手社員の係に、自分よりももっとパソコンが得意な新入社員が入ってくることを嫌に思う。

日常のあらゆるところで、自分と他人が比較されるシーンは多々あると思います。

比べられる土俵が自分の得意な分野であれば、人は自分の優位を保ち続けたいと欲するのです。

社会的比較バイアスが発生する理由

なぜ社会的比較バイアスが働くのでしょうか?

ガルシアら准教授らは、それは「自尊心」を維持するためだと説明しています。

自尊心とは、人が生まれながらにして持っている「自分には価値がある」という感覚です。(参考:Branden, 1990*3

アバウトに言うと、プライドや自信のようなものです。

自尊心があるからこそ、自分の相対的優位を保とうとする“社会的比較バイアス”が生じるというのです。

たとえば、お料理教室で30年間お料理を教えてきたベテラン講師が助手を雇うために採用面接を行ったとします。

その面接に、三ツ星ホテルのシェフと料理学校の学生が受けに来たとしたら、どちらを採用するでしょうか?

おそらく、ベテラン講師は学生を採用します。

なぜなら、自分よりも料理の腕が良いシェフを選んだ場合、ベテラン講師の自尊心が脅かされてしまうからです。

合理的に考えれば、三ツ星のシェフを雇った方がお料理教室のレベルはグンと上がるでしょうが、心理的な抵抗があるのです。

このように、自分の自尊心を守るための防衛機能として、社会的比較バイアスが働きます。

社会的比較バイアスのデメリット

社会的比較バイアスが働くことで自分の自尊心を維持できるというメリットがありますが、世の中にはさまざまなデメリットをもたらします。

詳しく見ていきましょう。

社会的ジレンマを発生させる

社会的比較バイアスによるデメリットの1つが“社会的ジレンマ”の発生です。

社会的ジレンマとは、個人にとって最も得する選択が、ある組織の最適な選択と一致しないときに起こる葛藤です。(参考Chen, 1994*4

たとえば、暑がりな課長が社内のエアコンの温度を24℃に下げてしまったら、他の社員は寒くて仕事にならないでしょう。

これは、課長にとって最善の選択が、会社全体にとって悪い選択になってしまうという社会的ジレンマの一例です。

この社会的ジレンマが、社会的比較バイアスにより発生します。

つまり、自分の相対的優位を守ることによって自分は得しますが、組織全体で見ると損になってしまうということです。

たとえば、会社でパソコンが得意な上司が、自分の優位を守るために、自分によりもパソコンが得意な社員を部下にしないような人事をしてしまった場合、どうでしょう?

上司は自分のプライドは守れて満足かもしれませんが、会社の利益にはなりません。

このように、社会的比較バイアスは、個人と組織の利益の相反“社会的ジレンマ”を発生させてしまうのです。

健全な競争ができない

社会的比較バイアスのもう一つのデメリットは、正しい競争原理が働かなくなることです。

人は競争によって成長します。

競争が起こらなければ、能力や意見が進歩しなくなり、成長がストップしてしまいます。

たとえば、プレゼン能力に自信があるチームリーダーが、自分のプロジェクトチームに自分よりも能力が高い人間を採用しなかった場合、競争の機会を逃し、自分の成長を止めてしまいます。

自分のプライドを守ることは一時の満足に過ぎません。

それよりも、社会的比較バイアスを捨てて、ライバルと切磋琢磨することが、長い目で見れば本人のためになるでしょう。

まとめ

今回は、自分が高い評価を得ている分野で、自分の相対的優位を保とうとする“社会的比較バイアス”についてご紹介しました。

社会的比較バイアスは、認知バイアスの中でもかなり新しく、あまり研究がなされていません。

今後、新しく社会的比較バイアスの研究が追加されたら、記事を更新していこうと思います。

*1:L. Festinger, A theory of social comparison processes, Human Relations, 7 (1954) 117-140.

*2:S.M. Garcia, H. Song and A. Tesser, Tainted recommendations: The social comparison bias, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 113 (2010) 97-101.

*3:N. Branden, What is self-esteem?, Internarional Conference on Self-Esteem, Asker, Oslo, Norway, Augast 1990.

*4:X. Chen and S.S. Komorita, The effect of communication and commitment in a public goods social dilemma, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 60 (1994) 367-386.