ふむふむ心理学

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バイアス教育と心理学のブログ

『楽観主義バイアス』と『悲観主義バイアス』を具体例で詳しく解説

宝くじを買って、抽選までの間に

「当たるかなぁ!」

とドキドキして過ごしたり、

自分の子供の特技を見つけるたびに

「うちの子、将来有望だ」

と期待したりすることってありますよね?

このように、自分の良い未来の可能性を過大評価する傾向を、楽観主義バイアスといいます。

(バイアスとは、考え方が偏ることです。)

反対に、自分の悪い未来の可能性を過大評価する傾向は、悲観主義バイアスです。

本記事では、楽観主義バイアスと悲観主義バイアスについて、専門的かつ分かりやすく解説していきます。

楽観主義バイアスと悲観主義バイアス

楽観主義バイアスと悲観主義バイアスの定義

イギリスの名門大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの認知神経科学のターリ・シャーロット教授は、楽観主義バイアスと悲観主義バイアスを次のように定義しています。

この2つのバイアスは、これから起こるできごとへの”期待″と実際に起こる”事実″との差で決まり、期待が高ければ楽観主義バイアス、期待が低ければ悲観主義バイアスである。(参考文献:T. Sharot, The optimism bias, Current biology 21 (2011) R941-R945.)

つまり、将来を考えるときに、現実よりもポジティブな結果を期待する傾向が楽観主義バイアス、反対に、現実よりもネガティブな未来を想定する傾向が悲観主義バイアスということです。

たとえば、就職活動をしていて、面接を100社受けたとします。

そのうち10社から内定をもらいました。

もともと、「30社くらい受かるだろう」と多めに考えていたならば、それは楽観主義バイアスが働いていることになります。

一方で、「どうせ1社も受からない」と少なめに考えていたのであれば、悲観主義バイアスと言えるでしょう。

楽観vs悲観どっちが多い?

およそ80%の人に楽観主義バイアスがあると推定されています。(参考文献:前述のシャーロットの論文)

一方で、悲観主義バイアスを持つ人は意外と少数派です。

アメリカの心理学者ダニエル・ストランクらによると、重度のうつ病患者は悲観主義バイアスを持つ傾向があると言います。

また、軽度のうつ病患者には、どちらのバイアスもかかっていない傾向が見られると述べています。

(参考文献:D.R. Strunk, H. Lopez, R.J. DeRubeis, Depressive symptoms are associated with unrealistic negative predictions of future life events, Behaviour Research and Therapy, 44 (2006) 861-882.)

つまり、一般的な傾向として、

健常人 → 楽観主義バイアスが有利

軽いうつ → バイアス無し

重いうつ → 悲観主義バイアスが有利

ということです。

このように、楽観主義バイアスは多くの人に見られる人間の共通した本質ですが、悲観主義バイアスは限られていると言えるでしょう。

 

ネガティビティバイアスとは違うの?

悲観主義バイアスとネガティビティバイアスは同じような意味に思えますが、少し違います

悲観主義バイアスは、自分の将来に期待を持たないことです。

一方で、

ネガティビティバイアスは、ポジティブな情報よりもネガティブな情報から強い影響を受けやすいというバイアスです。

つまり、ネガティビティバイアスは過去や今起こったマイナスなことを、過度に大きく受け止めてしまうことです。

たとえば、昔やった恥ずかしい失敗を未だに忘れられないのはネガティビティバイアスの影響です。

自分はネガティブだなと思っている人は、このネガティビティバイアスの方だと考えられます。

要するに、悲観主義バイアスは未来をネガティブに考えることで、ネガティビティバイアスは過去や現在からネガティブな影響を受けることです。

ネガティビティバイアスについてもっと詳しく知りたければ、こちらの記事を参考にしてください。

daily-psychology.hatenablog.com

 

楽観主義バイアスの具体例

悲観主義バイアスと違い、楽観主義バイアスは多くの人に見られる性質です。

そのため、さまざまな場面でバイアスの影響を感じることでしょう。

いくつか具体例をご紹介します。

未来への過度の期待

まず、楽観主義バイアスが強い人は、ポジティブな出来事が起こる可能性を過大評価します。

たとえば、

  • 平均寿命よりも長生きすると考える
  • 自分の子供は平均よりも優秀に育つと思い込む
  • 良い企業に就職できると過度に期待する
  • 将来的にある程度出世できると思っている
  • 2分の1の確率は当たりそうな気がする

リスクの過小評価

また、楽観主義バイアスが強い人は、リスクを過小評価します。

たとえば、

・離婚したり、不仲になったりする可能性を低く見積もる

・交通事故に遭う可能性を低く見積もる

・癌などの深刻な病気に罹る可能性を低く見積もる

・テレビで報道されているような事故や犯罪は、自分には縁がないと思っている

このようなことを無意識に感じていたり、考えていたりする傾向があるのです。

ここで1つ考えてみてください。

あなたは、将来がんにかかると思いますか?

おそらく、ほとんどの人は「自分は大丈夫だろう」と考えているはずです。

しかし、国立がん研究センターの統計によると、

日本人が一生のうちにがんと診断される確率(2018年データ)

男性 65.0%(2人に1人)

女性 50.2%(2人に1人)

日本人ががんで死亡する確率(2019年データ)

男性 26.7%(4人に1人)

女性 17.8%(6人に1人)

出典:国立がん研究センター『最新がん統計』より

つまり、日本人の半分はがんにかかっています。

しかしながら、多くの人は楽観主義バイアスが働き、自分ががんになるリスクを体感的に低く見積もっています。

その証拠にこの数値を見てもなお、がんを他人事のように思ってるのではないでしょうか?

楽観主義バイアスが働く条件

楽観主義バイアスを持つ人は、四六時中楽観的なのでしょうか?

それは、違います。

楽観主義バイアスが働くためには、条件があります。

それは、これから起こるできごとを、自分が

に楽観主義バイアスは強まりやすくなります。

自分が状況をコントロールしているとき

ニューヨーク大学ジータ・メノン教授らは

「物事がある程度自分の思い通りにコントロールできるような状況では、楽観主義バイアスが強まる」(参考文献:G. Menon, E.J. Kyung, N. Agrawal, Biases in social comparisons: Optimism or pessimism?, Organizational Behavior and Human Decision Processes 108 (2009) 39-52.)

と主張しています。

たとえば、友人と2人でドライブに出かける状況を考えてみましょう。

きっと友人の運転よりも自分で運転しているときの方が、ずっと安心できるはずです。

これは自分で運転しているときに、楽観主義バイアスが働き、

「事故なんて起こさないだろう」

とリスクを少なく考えてしまうからです。

また、就職活動の例を考えてみると、やはり他人の合否より自分の合否の方が、より楽観的な結果をイメージするはずです。

このように、将来の結果を自分でコントロール可能な場合に、楽観主義バイアスは働くのです。

コントロールできると思い込んでいるとき

状況を自分でコントロールできなくても、楽観主義バイアスは働きます。

それは、自分でコントロールできていると錯覚しているときです。

前・ボストン連邦準備銀行研究部門の上級エコノミスト、現・ヘブライ大学准教授のアナット・ブラチャ氏は、

「コントロールの錯覚が影響している」(参考文献:A. Bracha, D.J. Brown, Affective decision making: A theory of optimism bias, Games and Economic Behavior, 75 (2012) 67-80.)

と指摘しています。

コントロールの錯覚とは、コントロール幻想ともいい、「自分の能力とは無関係なできごとでも、自分がコントロールしていると錯覚してしまう心理現象」です。

つまり、実際に自分がコントロールしていなくても、自分でそう思い込んでいれば、楽観主義バイアスが働くということです。

たとえば、懸賞や抽選に応募したときに、

「当選するかも」

と密かに期待するのは、コントロールの錯覚によって楽観主義バイアスが作用した結果です。

楽観主義バイアスが生じる原因

なぜ多くの人に楽観主義バイアスは働くのでしょうか?

前述のアナット・ブラチャ氏は、楽観主義バイアスが生じる要因として、次の3点を挙げています。

動機づけられた推論

楽観主義バイアスの生じる原因の一つに「動機づけられた推論」があります。

動機づけられた推論とは、「人々が自分の望みや欲求、好みに従って、偏って考えたり物事を判断したりすること」です。(参考文献:Z. Kunda, The case for motivated reasoning, Psychological Bulletin, 108 (1990) 480-498.)

確証バイアスなどと同じように、楽観主義バイアスもこの「動機づけられた推論」によって引き起こされていると考えられています。

たとえば、

これからあなたは就職活動を行う予定だとします。

当然、より良い企業に採用されたいと望んでいるはずです。

その願望があなたを楽観的にさせてしまうのです。

つまり、良い会社に入りたいという欲求から

「きっと複数の有名企業から声がかかるだろう」

と過度に楽観的に推測してしまうということです。

このように、自分の望む方向に無意識に偏って考える結果、楽観主義バイアスが生まれるのです。

能力仮説

楽観主義バイアスを生じる原因の一つに能力仮説があります。

能力仮説とは、「人は、自分が有能であると感じたり、知識があると感じたりする状況では、賭けることを好むが、そうでないときには賭けることを嫌う」というものです。この仮説は、1991年にヒースとトヴェルスキーにより提案され、立証されました。(参考文献:C. Heath, A. Tversky, Preference and belief: Ambiguity and competence in choice under uncertainty, Journal of risk and uncertainty 4 (1991) 5-28.)

つまり、自分が有能であると感じる状況では、楽観的になるということです。

たとえば、競馬を考えてみましょう。

競馬の初心者は、いきなり大金を賭けることはしないでしょう。

一方で、競馬の知識があり、何度も経験している人は、大した根拠もなしに「今回は勝てる」と大きく賭けることもあるでしょう。

つまり、経験者は勝率を楽観的に考えてしまうのです。

このように、能力仮説が楽観主義バイアスの引き金になっている場合があります。

利用可能性ヒューリスティック

楽観主義バイアスが発生する3つ目の理由は、利用可能性ヒューリスティックです。

人は、何かを判断するときに、思い出しやすい情報や利用しやすい情報を使って、すばやく意思決定することがあります。これを利用可能性ヒューリスティックといいます。ノーベル経済学賞を受賞したトヴェルスキー教授とカーネマン教授によって提唱されました。(参考文献:A. Tversky, D. Kahneman, Availability: A heuristic for judging frequency and probability, Cognitive psychology 5 (1973) 207-232.)

つまり、自分に関する情報は、他人の情報よりも思い出しやすくアクセスしやすいために、自分への楽観的な考えを合理化しやすくなってしまうのです。

たとえば、自分が会社を立ち上げた場合と他人が会社を立ち上げた場合を比べてみてください。

おそらく、自分の会社の方が成功すると楽観的に考えるはずです。

なぜなら、自分はこれまでどれだけの勉強をしてきたか、どれだけの能力があるかを知っているからです。

それらの情報量の差が、無意識に自分へ有利に偏って判断させてしまうのです。

その結果、楽観主義バイアスが生まれてしまいます。

バイアスを無くすべきか?

楽観主義バイアスや悲観主義バイアスは克服するべきなのでしょうか?

まず、悲観主義バイアスは積極的に無くすことをおすすめします。

なぜなら、悲観主義バイアスはうつ病の発症と密接に関わっているからです。

では、楽観主義バイアスはどうでしょう?

たしかに、楽観主義バイアスには将来のリスクを軽視するというデメリットがあります。

しかし、適度な楽観主義バイアスは人間の精神衛生上とても大切な役割をしています。

たとえば、将来がんになるかもしれないと毎日不安に思ったり、犯罪に巻き込まれるかもしれないと怯えながら生活したりしていては、いずれ心がすり減ってしまいます。

未来を少し明るく考えるぐらいが、心理的にちょうどいいのです。

まとめ

本記事では楽観主義バイアスと悲観主義バイアスについて記載しました。

内容をおさらいしますと、

<楽観主義バイアス>

自分の未来を楽観的に考える思考パターン

悲観主義バイアス>

自分の未来を悲観的に考える思考パターン