【ダニング-クルーガー効果】具体的な研究事例で分かりやすく解説
ダニング-クルーガー効果とは、分かりやすく言うと、
自分のことを賢く有能だと過信してしまう認知バイアス(バイアス:偏り)です。
本記事では、ダニング-クルーガー効果の
について、分かりやすく説明します。
ダニング-クルーガー効果の定義
能力の低い人ほど、自分の能力を正確に見積もることができない現象です。
その結果、能力の低い人間は、自分の持つ知識やスキルを実力以上に評価してしまう傾向が見られます。
この効果は、1999年にアメリカの社会心理学者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーによって発表されました。
2人は、行動テスト実験を行った結果
・成績の悪かった人は、自分の行動を過大評価する
・成績の良かった人は、自分の行動をわずかに過小評価する
という傾向を発見しました。
(参考文献:J. Kruger and D. Dunning, Unskilled and Unaware of It: How Difficulties in Recognizing One's Own Incompetence Lead to Inflated Self-Assessments, Journal of Personality and Social Psychology, 77 (1999) 1121-1134.)
ダニング-クルーガー効果が顕著な人
ダニング-クルーガー効果は世界中で確認されている現象です。
そのため、あなたのまわりにも次のような人がいるのではないでしょうか?
-
少し知識をかじったくらいで、専門家ぶる
-
過去の業績をいつまでも自慢している
-
自分の仕事に関して、その分野のすべてを知っていると思っている
-
知ったかぶりをしてまで、答えようとする
このような人たちは、ダニング-クルーガー効果が強く現れている人かもしれません。
研究事例
ダニング-クルーガー効果は、いろいろな場面で確認されています。
そして、多くの研究者によるさまざまな研究事例の報告があります。
その代表的な例をいくつか簡単にご紹介します。
学力テスト
学力試験でもダニング-クルーガー効果の発生が確認されています。
例えば、ホープ大学のショーネシーは、学生の自信判断の正確さとテストの成績の関係を調べるために、大学生らに学力テストを実施しました。
ショーネシーは、学生たちが問題を解くたびに
- 正解
- おそらく正解
- おそらく不正解
- 不正解
と確信度を記入させました。
テスト終了後に、学生たちを成績順に
- 上位グループ
- 2番グループ
- 3番グループ
- 最下位グループ
と4つのグループに分けました。
そして各グループの実際の成績と確信度が、どれぐらい合っていたかチェックしました。
その結果、上位グループほど、自己判断が正確であることが分かりました。
(参考文献:J.J. Shaughnessy, Confidence-Judgment Accuracy as a Predictor of Test Performance, Journal of Research in Personality, 13 (1979) 505-514.)
文章読解力
文章を読む力がない人や読むスピードが遅い人にも、ダニング‐クルーガー効果は働きます。
1994年に、ノースダコタ州立大学のマキらは、文章理解能力と自己評価能力の関係を調べるために、次のような実験を行いました。
集めた被験者に、文章の読解力を計測するためのいくつかのテストを実施しました。
その際に、被験者には自分の回答の出来栄えを自己評価してもらいました。
その結果、理解度の高い人や読むスピードが速い人は、そうでない人に比べて、的確に自己評価できることが分かりました。
(参考文献:R.H. Maki, D. Jonas and M. Kallod, The relationship between comprehension and metacomprehension ability. Psychonomic Bulletin & Review, 1 (1994) 126-129.)
薬剤師の教育プログラム
薬学というニッチな分野でも、ダニング‐クルーガー効果は発揮されます。
トロント大学のオースティンらは2008年に、薬剤師の教育プログラムにおけるダニング‐クルーガー効果を調査しました。
彼らは、カナダで薬剤師免許取得を目指す薬学部卒業生にテストや口頭試問、臨床試験などを実施して、その内容をベテラン薬剤師に評価してもらいました。
その際に、卒業生らにも試験の内容について自己評価してもらいました。
その結果、最も成績が悪かったグループ(4グループ中)は、自己評価がベテラン薬剤師の評価と最も大きくかけ離れていることが判明したのです。
(参考文献:Z. Austin, P.A.M. Gregory and M. Galli, “I just don’t know what I’m supposed to know”: Evaluating self-assessment skills of international pharmacy graduates in Canada, Research in Social and Administrative Pharmacy, 4 (2008) 115-124.)
ディベート大会
相手を論破する力が低い人も、自分の能力を過信するダニング‐クルーガー効果に支配されてしまいます。
エーリンガーらは、コーネル大学で開催されたディベート大会で、ダニング‐クルーガー効果を検証しました。
ディベート大会の参加チームには、審査員の点数とは別に、自己採点してもらいました。
ディベートの後、評価の高い順に参加チームを4つにグループ分けしました。
その結果、上位グループは審査員の得点と自己採点の差が0.1点だったのもかかわらず、最下位グループでは1.1点も過大評価していることが分かりました。
(参考文献:J. Ehrlinger, K. Johnson, M. Banner, D. Dunning and J. Kruger, Why the unskilled are unaware: Further explorations of (absent) self-insight among the incompetent, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 105 (2008) 98-121. のstudy 2)
ゲーム
ボードゲームやカードゲームでも、条件によってはダニング‐クルーガー効果が現れる場合があります。
北京大学のパクとローザンヌ大学(スイス)のサントス-ピントは、次のような調査を実施し、非常に面白いことが分かりました。
彼らは、チェスのトーナメントとポーカーのトーナメントの各プレーヤーを対象に、プレーヤー自身の事前予想と試合後の結果を比較しました。
その結果、どちらの種目でもプレーヤーは自分の勝利を過信していました。
しかし、チェスでのみ、「弱いプレーヤーほど自信過剰が強くなる傾向」が見られました。
この違いは、チェスが実力に左右されるゲームなのに対してポーカーは運要素が大きいゲームであることが、関係していると考えられました。
(参考文献:Y.J. Park and L. Santos-Pinto, Overconfidence in tournament: evidence from the field, Theory Dec. 69 (2010) 143-166.)
起こるメカニズム
ダニング‐クルーガー効果はどうして起こるのでしょうか?
その理由として考えられている理論が、
-
無知による二重の負担
-
平均への回帰
です。
無知による二重の負担
ダニングは、ダニング‐クルーガー効果が起こる原因を「無知による二重の負担(The double burden of incompetence)」という言葉を使って説明しています。
(参考文献:D. Dunning, The Dunning-Kruger effect: On being ignorant of one’s own ignorance, Advances in Experimental Social Psychology, 44 (2011) 247-296. (3章「The dunning-Kruger Effect」の2項「The double burden of incompetence」より))
これはどういうことか説明すると、まず能力の低い人は、無知であるために多くのミスを犯します。
これが第一の負担です。
さらに第二の負担として、このような人は無知ゆえに「自分が能力の低い人間である」ということを自覚できないのです。
この「無知による二重の負担」によってダニング‐クルーガー効果が引き起こされているのです。
さらに深掘りすると、無知による二重の負担が生じる理由は、
「ある専門分野の能力」
「その能力を評価する能力」
が同じ知識がもとになっているからです。
例えば、文章能力に卓越した人物がいるとします。
この人物は、文章表現のさまざまな技法を知っているので、自分がどの程度の文才か把握することができます。
一方で、文章能力のない人間は、その分野の知識がほとんどありません。
そのため、自分の文章能力が一体どのくらいのレベルなのかさえ理解できないのです。
しかし、能力が低い人でも、自分の知っている範囲で自分を評価してしまうため、結果として都合よく解釈してしまうというのです。
たとえ話をすると、これは登山家が、その山の全容を知らずに、
「今、何合目にいるか?」
を知ろうとしているようなものです。
このようにして、能力の低い人間はダニング‐クルーガー効果を発生させるのです。
平均への回帰
ダニング‐クルーガー効果が観測されるメカニズムとして、もう1つの理由が考えられています。
クリューガー*とミューラーは、「平均への回帰」という現象が起こっている可能性があると述べています。(*クルーガー氏とは別の研究者です)
(参考文献:J. Krueger and R.A. Mueller, Unskilled, unaware, or both? The Better-Than-Average heuristic and statistical regression predict errors in estimates of own performance, Journal of Personality and Social Psychology, 82 (2002) 180-188.)
平均への回帰とは何かというと、ある試験で1回目の点数が非常に悪かった場合、2回目の試験の点数は、1回目より平均に近くなるという統計学的な現象です。
例えば、小学校のマラソン大会でビリだった生徒は、次のマラソンではビリより少し順位を伸ばすことがよくあります。
これは、一回目で起こった偶然の不運などが解消されたりするからです。
つまり、成績は実力に加えて、その日の運や状況、あるいは偶然誤差などに左右される部分があります。
これにより、たまたま1回目でビリだった人やトップだった人は、2回目では少し平均の順位に近づく場合が多いのです。
これと同じことが、ダニング‐クルーガー効果でも起きている可能性があると考えられています。
つまり、各研究者たちが行った実験で、偶然にも最も悪い成績を出した人たちは、平均への回帰によって自己評価が実際の成績より平均値に近づいたのです。
その結果、自己評価が過大評価しているように見えてしまっているというのです。
もう少し分かりやすく説明すると、
実験の被験者たちは皆、テスト前は相応の自己評価をした
↓
偶然にも、本来の実力よりも悪い成績を出した被験者がいた
↓
終わってから見ると、あたかも過大評価していたように見える
ということです。
しかし、ダニング‐クルーガー効果が起こる原因は、平均への回帰だけでは説明がつかないと言います。
つまり、平均への回帰と無知による二重の負担が合わさって、起こっているのです。
すべての人に起こりうるか?
残念ですが、ダニング‐クルーガー効果は、あらゆる人に起こりうると考えられます。
なぜなら、どんなに優秀な人でも、あらゆる分野の知識を持っているわけではないからです。
つまり、数学の天才は、数学の分野ではダニング‐クルーガー効果を受けないかもしれませんが、苦手な国語では受けてしまうでしょう。
不得意な分野がない人は、おそらくこの世にはいません。
苦手な分野がある以上、その分野でダニング‐クルーガー効果が発揮されてしまうでしょう。
それを防ぐためには、どの分野にせよ勉強して知識を付けることが重要です。
筆者からのコメント
ダニング‐クルーガー効果は知識が増えるほど、改善されていきます。
これは、その分野の知識が増えることで、周りを見渡す力がついてくるからです。
おそらく、勉強すればするほど、過去の自分がいかに浅はかだったか思い知ることでしょう。
この感覚は、「大人になって、中学二年生のころの黒歴史を恥ずかしく思う感覚」に似ているような気がします。
そう考えると、中二病もダニング‐クルーガー効果なのではないかと思えてきませんか?
まとめ
本記事では、ダニング‐クルーガー効果について解説してきました。
最後に本記事の内容を簡単にまとめます。
・平均への回帰