ふむふむ心理学

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バイアス教育と心理学のブログ

【確証バイアス:Confirmation Bias】を詳しく解説

確証バイアス(Confirmation bias)は、簡単に言うと

『自分にとって都合の良い情報ばかり集めようとする認知バイアス(バイアス:偏り)の一種』です。

おそらく認知バイアスの中で最も有名で、最も研究されているテーマではないでしょうか?

その分、とても奥が深い心理的概念でもあります。

本記事では、

・確証バイアスの定義
・最初の研究
・発生メカニズム

などの専門的な内容を、具体例をまじえて分かりやすく解説します。

確証バイアス

確証バイアスの定義

アメリカの心理学者レイモンド・S・ニッカーソンは自著の総説論文の中で、確証バイアスを次のように定義しています。

確証バイアス:

『真実性に疑問のある仮説や信念を不適切に補強することを意味する心理学上の概念』

(参考文献:R.S. Nickerson, Confirmation bias: A ubiquitous phenomenon in many guises, Review of General Psychology, 2 (1998) 175-220.)

分かりやすく言い換えると、

確証バイアスは、自分の考えに合った情報ばかり無意識に集めようとする心理傾向のことを指します。

例えば、仮にあなたが

「中国人はマナーが悪い」

という偏った考えを持っていたとします。

すると、中国人のさまざまな行動の中から、悪い態度ばかりが目についてしまいます

その結果、

「ほら、やっぱり中国人はマナーが悪い」

と、さらに自分の考えを強めてしまうのです。

このように、確証バイアスが働くと、自分にとって都合の良いことばかり見てしまうのです。

確証バイアス研究の出発点

心理学の世界では、確証バイアスはかなり昔から考えられていました。

確証バイアスの存在を、実験的に証明したのがイギリスの認知心理学者ピーター・C・ウェイソンです。

その代表的な実験が、

・ルール発見課題(1960年)

 「確証バイアスに関する、その後の研究の出発点となった実験」

・選択課題(1966年)

 「多くの心理学者から確証バイアスが働いていると解釈された実験」

です。

それでは、この2つの実験について説明していきます。

ウェイソンのルール発見課題(1960年)

ウェイソンのルール発見課題

ウェイソンは被験者に「2、4、6」という3つの数字を見せて、

「この数字の並び方には、どのようなルールがあるか」

を推理させる実験を行いました。

ウェイソンが決めた実際のルール(答え)は、単に「数字が大きくなる」でした。

ウェイソンは、ヒントを得る手段として被験者に「自由に3つの数字を回答する権利」を与えました。

そして、回答した3つの数字が、正解のルールに当たっているか、外れているか、その都度教えました。

これらの情報を使って、正解のルールを見つけ出すというシンプルなゲームです。

例えば、被験者が

「5、10、15」

と回答すると、ウェイソンは「当たり」と伝え、

「3、2、1」

と回答すると、ウェイソンは「ハズレ」と伝えました。

このゲームはルールを当てるか、タイムアップ(45分)するか、ギブアップすると終了となりました。

(参考文献:P. C. Wason (1960) On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task, Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12:3, 129-140)

この実験で、非常におもしろいことが分かりました。

それは、正解になかなか辿り着けなかった被験者は、ヒントをもらうときに、自分が予想したルールを確認するような数字ばかり回答していたのに対して、

早く正解した被験者は、さまざまな数字の組み合わせを回答していたのです。

例えば、提示された「2、4、6」という数字から

「ルールは2の倍数かな?」と初めに予想したとします。

成績の悪かった被験者は、

「6、8、10」

「10、20、30」

など、予想したルールを確認するような数字を回答する傾向がありました。

一方で、優秀な被験者は、あえて

「1、3、5」(奇数の昇順)

「6、4、2」(偶数の降順)

など、予想に反する数字を言うことで、正解のルールをしぼり込んでいたのです。

ウェイソンは、この実験で

『自分の信念を確認していくだけでは、正しい結論に辿り着けない。信念から脱却することが重要である。しかし、多くの人は自分の信念を維持したがる』

と述べています。

このウェイソンのルール発見課題が、その後の確証バイアス研究のきっかけとなりました。

ウェイソンの選択課題(1966年)

ウェイソンの選択課題

もう一つの実験では、ウェイソンは被験者に4枚のカードを見せました。

そのカードにはそれぞれ、

母音のアルファベット(例:A)

子音のアルファベット(例:D)

偶数の数字(例:4)

奇数の数字(例:7)

が書かれていました。

そして、カードは裏表になっており、アルファベットの裏面には数字が書かれていると説明しました。

次の仮説を証明するためには、どのカードをめくれば良いか、とたずねました。

その仮説が、

「母音の裏は偶数である」

というものです。

正解を先に言うと、「Aと7のカード」です。

ところが、多くの人は「Aのカード」だけ、もしくは「Aと4のカード」を選んだといいます。

(参考文献:(1) Wason, P. C. (1966). Reasoning. In B. M. Foss (Ed.), New horizons in psychology I, Harmondsworth, Middlesex, England: Penguin. (2) Wason, P. C. (1968). Reasoning about a rule. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 20, 273-281.)

「Aのカード」をめくる必要があることは、おそらく誰でも分かると思います。

そして、もう一枚めくるとしたら、直感的には「4のカード」をめくって裏に母音が書かれているか確認したい気持ちになりますよね。

しかし、実は「4のカード」の裏が母音であろうが、子音であろうが仮説の検証にはまったく関係がないのです。

仮説の検証に必要な行為は、

・Aのカードをめくって、裏が偶数であることを確認する

・7のカードをめくって、裏が母音でないことを確認する

この2つのです。

なぜなら、この仮説は、奇数のカードの裏に母音が書かれていると成り立たないからです。

この実験では、関係のない「4のカード」をめくって、その裏が母音か確かめたくなる心理こそ確証バイアスではないかと解釈されています。

確証バイアスが発生するメカニズム

多くの人に確証バイアスが生じる原因はいくつかあると考えられています。

心理学者の間で議論されている主なメカニズムについてご紹介します。

願望や欲望から生じる

イスラエル社会心理学者Z・クンダは、人の願望や欲望、好みなどによって間接的に確証バイアスが引き起こされていると主張しています。

(参考文献:Ziva Kunda, The case for motivated reasoning, Psychological Bulletin, 108 (1990) 480-498.)

つまり、人が導き出したいと思うからこそ、その結論が導かれるのです。

例えば、コーヒー好きの人に

「コーヒーは健康に良いか?悪いか?」

とたずねたならば、健康に良いという情報ばかり探すでしょう。

そして、健康に悪いという情報は軽視してしまいます。

このように、自分の願望や欲望、好みに反する証拠を過小評価してしまい、これが確証バイアスに繋がっていくのです。

ポジティブ・テスト・ストラテジー

人は、ある仮説の真偽を確かめようとするときに、肯定的な答えが返ってくる質問を好む傾向があります。

これをポジティブ・テスト・ストラテジーと呼びます。

(参考文献:J. Klayman and Y. Ha, Confirmation, Disconfirmation, and Information in Hypothesis Testing, Psychological Review, 94 (1987) 211-228.)

このことが確証バイアスを発生させる要因の一つになっている可能性があります。

例えば、誰かに

「A型の人は几帳面だと思いますか?」

と聞かれたとします。

多くの人は、A型で几帳面な性格の知り合いを片っ端から思い出そうとするでしょう。

そして、該当者を見つける度に、信念が強まっていき、最終的に、

「A型の人は几帳面だと思います!」と回答するのではないでしょうか?

しかし、この調査方法には致命的な欠陥があります。

それは、他の血液型の人のことをまったく調べていないことです。

もしかしたら、AB型の友人も、A型の友人と同じくらいの割合で几帳面な人がいるかもしれません。

あるいは、すべての血液型で性格に違いはないかもしれません。

このように、多くの人は仮説に対して肯定的な答えが返ってくる調べ方をします。

そして、本来調べなければならない「AB型、O型、B型は几帳面ではない」といった否定的な調べ方をしない傾向があるのです。

これが確証バイアスが発生する可能性の一つです。

脳の処理の限界

脳のワーキングメモリには、一度に一つの仮説についての情報しか入れることができないと言われています。

(参考文献:C.R. Mynatt, M.E. Doherty and W. Dragan, Information relevance, working memory, and the consideration of alternatives, The Quarterly Journal of Experimental Psychology, 46 (1993) 759-778.)

つまり、人は一度に一つのことしか考えられないのです。

そして、自分が正しいと思う仮説のみを検証してしまいます。

これが確証バイアスの発生する理由の一つだと考えられています。

例えば、家を買うなら「戸建て」か「マンション」かという議論はよく耳にしますよね?

人は両方の立場から、同時に物事を考えられません。

つまり、戸建て派の人は、「戸建てが良い」という情報で、短期的に脳がいっぱいになってしまうのです。

その結果、もう片方の情報を軽視してしまいます。

これが確証バイアスとなるのです。

確証バイアスを誘発させる方法

確証バイアスは、特定の条件によって強制的に発動させることが可能です。

アメリカの心理学者エドワード・R・ハルトやスティーブン・J・シャーマンの研究によると、人はある仮説が起こることを想像したり、説明したりするように他人から求められると、その仮説が本当に起こると感じるようになります。

(参考文献:(1) E.R. Hirt and S.J. Sherman, The role of prior knowledge in explaining hypothetical events, Journal of Experimental Social Psychology, 21 (1985) 519-543. (2) S.J. Sherman, K.S. Zehner, J. Johnson and E.R. Hirt, Social explanation: The role of timing, set, and recall on subjective likelihood estimates, Journal of Personality and Social Psychology, 44 (1983) 1127–1143.

例えば、来週の読売ジャイアンツ阪神タイガースの試合で、あなたの友人に

ジャイアンツが勝つことを想像させる

ジャイアンツがなぜ強いか説明させる

などの行為をさせることによって、その友人はジャイアンツが勝つ確率を実際よりも高めに見積もるようになります。

つまり、意図的に他人の推理を偏らせることができるのです。

確証バイアスの危険性

確証バイアスをそのまま放置していると、豊かな人生を送ることはできません。

どのような欠点があるかを認識して、事前に対策を講じておきましょう。

差別や偏見

確証バイアスは偏見や差別につながる恐れがあります。

例えば、もともと「女性はおしゃべりが好きだ」という偏見を持っている人は、女性の中にはおしゃべりな人もそうでない人もいるにも関わらず、おしゃべりな一面ばかり目についてしまいます。

その結果、「やっぱり女性はおしゃべりだ」という信念がさらに強まってしまうのです。

このように、特定の情報だけを無意識に選別する確証バイアスは、差別や偏見の元となる場合があります。

もし、そのような差別や偏見をなくしたいと考えているのであれば、あなたはもうすでに大丈夫です。

確証バイアスのことを詳しく知ったことによって、意識的に自分の行動や考えを制御することができるからです。

差別や偏見の思考に陥りそうになったら、ぜひ確証バイアスのことを思い出してください。

ネガティブな情報ばかり集める

確証バイアスは、偏った情報のみを集めてしまう特性があります。

そのため、一度ネガティブな方向に偏ると、取り返しのつかなくなることがあります。

例えば、子育ての経験がある人の多くは、自分の子供の成長について、何かしらの心配事があると言われています。

その中でも特に、おしゃべりが遅い場合には

「もしかして発達に何か問題があるのでは?」

と、とても不安な気持ちになりますよね。

そのようなときに確証バイアスが働いてしまうと、

「これもできない・・・」

「あれもできない・・・」

と、出来ないことに注意が向いてしまいがちになり、さらに不安を募らせてしまいます。

不安を克服するためには、できないことを考えるのではなくて、「何ができるか」を考えてみましょう

「これもできる!」

「あれもできる!」

と、できることを数えていけば、自信がわいてくるでしょう。

ネガティブな情報に偏る傾向は、ネガティビティバイアスという別の認知バイアスも関与しています。

もしよければ、以下の記事を参考にしてください。

daily-psychology.hatenablog.com

まとめ

本記事では確証バイアスについて専門的に解説しました。

◇ 確証バイアスの定義 ◇
【専門化向けの定義】
真実性に疑問のある仮説や信念を不適切に補強することを意味する概念
【初心者向けの定義】
自分の信念に合った情報のみを集めようとする心理傾向
◇ はじまりの実験 ◇
ウェイソンのルール発見課題(1960年)
ウェイソンの選択課題(1966年)
◇ 発生メカニズム ◇
・願望や欲望から生じる
・ポジティブ・テスト・ストラテジー
・脳の処理の限界