後知恵バイアスとは何か?詳しく解説
あなたの周りに、「やっぱり」が口癖の人はいませんか?
もしくはあなた自身、たとえば部下が書類のミスをしたときや子供が飲み物をこぼしたとき、「やっぱりね!やると思った!」と感じたことはありませんか?
これは『後知恵バイアス』と呼ばれる心理的な現象で、あたかも「最初から分かっていた」かのように錯覚してしまう判断バイアス(バイアス:偏り)の1つです。
本記事では、後知恵バイアスの意味や具体例を分かりやすく、かつ詳細にご説明します。
後知恵バイアスとは何か?
心理学の判断・意思決定領域の専門家ニール・ローズ教授によると、
後知恵バイアスとは「何かが起こった後に『初めから分かっていた』と感じること」だと述べています。
(参考:Roese, 2012 *1)
もう少し、具体的に説明します。
人は、将来起こりうる結果を予測できていなかったとしても、いざ結果が分かると「ほら、やっぱりそうなった」と、あたかも事前に予測できていたかのように錯覚してしまうのです。
これが後知恵バイアスです。
(参考:Christensen-Szalanski, 1991 *3)
後知恵バイアスの具体例
医療現場にて
脳に腫瘍があると診断された男性のお話です。
この男の去年撮ったCT画像を見返すと、わずかに腫瘍らしき影が見えました。
この画像を元に、男性は「腫瘍は去年発見できたはずだ」と医師の見落としを主張しました。
果たして本当に医療過誤なのでしょうか?
これは後知恵バイアスの良い例です。
結果を知っているからこそ、そのCT画像の腫瘍が見えたのです。
結果を知らなければ、腫瘍の影は画像のノイズにしか見えなかったことでしょう。
このように、後知恵バイアスが働くと、現在の結果を容易に予測できたのではないかと勘違いしてしまうのです。
職場にて
とある社員が、取り返しのつかない不祥事を起こしてしまいました。
会社役員らが、不祥事の原因調査を行ったところ、過去の定期面談の資料から「不祥事の兆候がいくつも発見されました。
そのことが原因で、その社員ともども面談を行っていた上司にも責任があると判断されてしまいました。
果たして上司は、本当に部下の不祥事の兆候を見過ごしていたのでしょうか?
結果的には、そう見えるかもしれませんが、これも不祥事という結果が判明しているからこそ、過去の面談資料の中の兆候を見つけることができたのです。
上司が「将来、部下が起こす不祥事」を予期できたかというと、状況にもよりますが、難しいと思います。
警察への避難
時折ニュースで、ストーカーによる殺人事件が取り上げられています。
その度に、ニュースのコメンテーターなどから「なぜ警察はストーカーによる殺人を未然に防げなかったのか?」と責められています。
確かに、被害者は殺される前にストーカー被害を受けていて、警察もそれを把握しているならば、犯罪を防止できなかった責任は警察にもあるかもしれません。
しかし、やはり殺人が起こったからこそ、その殺人の発生を容易に予測できるのです。
後知恵バイアスが働くと、責任者を必要以上に責めてしまうことになります。
後知恵バイアス発生のメカニズム
ニール・ローズ教授によると、後知恵バイアスは3つの要素から生じるとされています。
それが、
- 予見可能性
- 必然性への信念
- 記憶の歪み
です。
難しいので出来るだけ分かりやすく説明していきます。
予見可能性
後知恵バイアスを生じさせる人の性質の1つに″予見可能性″というものがあります。
予見可能性とは、「今現実に起こっている出来事を事前に予見できたと感じる性質」のことです。
この予見可能性レベルが高い人は、
・こうなると思った
・最初から分かっていた
という感覚が強くなります。
つまり、そのような人は、自分の予見能力を過信していることになり、その過信が後知恵バイアスとして現れているのです。
必然性への信念
必然性への信念も後知恵バイアスを発生させる要素の1つです。
必然性への信念とは、
・物事は起こるべくして起こった
・過去の出来事はあらかじめ決まっていた
・これも運命だな
などと考える性質のことです。
この必然性への信念が強いと「与えられた状況では、この結果以外ありえない」と考える傾向が強くなります。
このような思考が、後知恵バイアスを生むのです。
記憶の歪み
記憶の歪みによって後知恵バイアスが生じることもあります。
記憶の歪みとは、自分の過去の記憶が改ざんされたり、無意識に記憶情報を取捨選択したりしてしまうことです。
なぜこのようなことが起きるかと言うと、人は自分の記憶情報が現在起こっている情報とピッタリ合うと、とても気持ち良く感じるからです。
その結果、人は現在の情報と一致する記憶を活性化し、一方で矛盾する記憶を非活性化したままにしてしまうのです。
そして、「確か、あの時こうなると思っていたはずだ」という考えに至り、後知恵バイアスを発生させてしまいます。
後知恵バイアスが引き起こす問題点
ニール・ローズ教授は、後知恵バイアスが個人の意思決定に重大な悪影響を及ぼすと指摘しています。
それはどのような問題なのでしょうか?
見ていきましょう。
視野を狭める
後知恵バイアスは、考え方の視野を狭めてしまう危険性があります。
要するに、問題の原因を特定するときに、洞察力が欠如して誤った原因に決め付けてしまうということです。
その結果、先ほどの職場での後知恵バイアスの具体例のように、問題の責任がない人に責任を負わせることになる可能性があります。
自信過剰になる
後知恵バイアスによって、自信過剰になってしまうという問題点もあります。
つまり、後知恵バイアスが働くことによって、自分は予測能力が高いと誤認識してしまうのです。
自信過剰になった結果、他の視点を見落としたり、危険な計画を推し進めたりと、ネガティブな影響を与えてしまうことでしょう。
後知恵バイアスから抜け出すためには?
後知恵バイアスは、自分や他人の人生に多大なる悪影響を及ぼします。
次の解決法にチャレンジして、一刻も早く克服することをおすすめします。
「逆を考える」戦略
「もし、現実とは逆の結果になっていたらどうだっただろうか」ということを考えることで、後知恵バイアスを軽減させることができます。
たとえば、次のようなシチュエーションを考えてみてください。
閑静な住宅地で、殺人事件が起きました。
あなたは、殺された男性の妻です。
刑事さんは「2人の容疑者がいる」と言いました。
その容疑者が
A:夫の浮気相手「A沢」
B:夫の会社の部下「B島」
数日後、事件が解決し、A沢が犯人だったと分かりました。
このとき、あなたは後知恵バイアスが働くせいで、「あぁ、やっぱりA沢か。思ったとおりだ。」という気になっています。
ここで「逆を考える」戦略です。
もし、犯人がB島だったらどう説明がつくか考えます。
「そういえば、夫は昔B島にパワハラをしていた」
逆の選択肢を無理やり考えることによって、B島にも殺人の動機があることに気付きます。
つまり、「逆を考える」戦略によって、眠っていた別の情報が刺激されるのです。
その結果、2つの情報をより公平に考えることができるようになり、後知恵バイアスが薄れるのです。
フィードバックを受けること
後知恵バイアスを抑える方法はもう1つあります。
それは、結果に対しての過去の自分の予測が正しかったかどうか、継続的にフィードバックを受けることです。
なぜなら、繰り返しフィードバックを受けることで、自分は正しい判断ができていたのかを何度も答え合わせできるからです。
例えば、天気予報士は毎日天気の予測と結果発表を行っています。
前日の自分の天気予報が正しかったか何度もフィードバックを受けることで、過信や後知恵バイアスを減らすことができるのです。
もし、これを日常生活に活用するならば、結果が出る前にメモを取っておくと良いでしょう。
そのメモには、結果に対する自分の判断を書き込んでください。
結果が出た後に、そのメモを読み返すことで、後知恵バイアスによる歪みを修正できるはずです。
終わりに
いかがでしたでしょうか?
後知恵バイアスという存在によって、自分の判断は絶対ではないということが分かりましたか?
自分の判断だからと信じ切ってはいけません。
特に、過去の判断ほど信用できないものはありませんから。
*1:N.J. Roese and K.D. Vohs, Hindsight bias, Perspectives on Psychological Science, 7 (2012) 411-426.
*2:B. Fischhoff, Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 1 (1975) 288-299.
*3:J.J. Christensen-Szalanski and C.F. Willham, The hindsight bias: A meta-analysis, Organizational Behavior and Human Decision Processes, 48 (1991) 147-168.