【内集団バイアス】特徴や具体例、克服法をわかりやすく解説
同じ県の出身と聞いて、妙に親近感が湧いた経験はありませんか?
また、スポーツを観戦しに行って同じチームのサポーターと意気投合したことはありませんか?
これらの感情や行動は、「内集団バイアス」という認知の偏りによって引き起こされています。
本記事では、内集団バイアスの特徴・原因・具体例・克服法などを分かりやすく解説していきます。
内集団バイアスの定義
内集団バイアスとは、自分が所属するグループ(内集団)の人を優遇する心理傾向です。
この心理的な性質は、1973年に心理学者のビリッグとタージフェルによって提唱されました。
参考文献:M. Billig, and H. Tajfel, Social categorization and similarity in intergroup behavior, European journal of social psychology, 3 (1973) 27-52.
彼らは実験で、コイントスや絵の好みによって集団を2つに分け、個人の行動をよく観察しました。
その結果、同じグループの人を特別扱いする行為(内集団ひいき)が観測され、内集団バイアスの存在が示唆されました。
内集団バイアスの本質は、あくまでも「仲間へのひいき」です。
しかし、グループ内の内集団バイアスが強化されていくと、
内集団ひいき
↓
外のグループを蔑視・敵視
↓
グループ間抗争
へと発展していく場合もあります。
その例として、人種差別や迫害があります。
特にナチス政権のユダヤ人への迫害は、内集団バイアスによる最も悲しい事件の一つであると言えるでしょう。
このように、人は仲間を優遇し、ときには属性の異なる他人を敵と見なしてしまう傾向があるのです。
内集団バイアスが強い人の特徴
内集団バイアスは多くの人が持っていますが、その強さには個人差があります。
内集団バイアスが強い人には、次のような特徴が見られます。
-
自分のグループの人と、他のグループの人では接し方が変わる
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自分のグループのためなら、ある程度のモラルのない行動も実行できる
-
自分のグループの人のミスは許せても、他のグループの同様のミスは許さない
-
格下とみなしたグループを差別する
-
自分のグループのメンバーには個性があると感じるが、他のグループのメンバーはみな同じに見える
例えば、日本人から見て、イタリア人がみな陽気だと感じるのは、この特徴を反映した結果と言えるでしょう。
発生メカニズム
内集団バイアスが発生する原因を見つけるために、今まで数多くの心理学者たちが研究行ってきました。
内集団バイアスの原因を説明している代表的な研究をご紹介します。
社会的アイデンティティ理論
人は、自分が所属するグループやその仲間が良い評価を受けると、同時に自分の自尊心も満たされる性質があります。
例えば、他人から自分の子供が褒められれば、自分も誇らしい気持ちになるでしょう。
そして、自分の子供を「よくやった!」と称賛し、さらに可愛がると思います。
このように、人は自分の所属グループや仲間がもっと良い評価を受けてほしいと望みます。
その願望が内集団ひいきや内集団バイアスを引き起こしているのです。
では、なぜこのように他人が褒められても、自分がうれしい気持ちになるのでしょうか?
それは、「社会的アイデンティティ(アイデンティティ:個性)」という考え方が影響しています。
社会的アイデンティティとは、自分が何らかのグループの一員であることを、自分の個性の一つとみなす考え方のことです。
例えば、
「私は東京都民です。」
「私は東大生です。」
「私は都庁に勤めています。」
などがそうです。
この考え方によって、所属グループやその仲間の価値が高まると、自分の価値も高くなったように感じるのです。
例えば、東京都民であることを個性の一つと考えている人は、他の人から「東京ってオシャレだよね」などと褒められると、自分も同じように褒められた気になるのです。
このように、グループに所属していること自体を自分の個性とみなす人にとっては、自分のグループが褒められれば、自分の自尊心も満足します。
そして、もっと自尊心を満たしたいから内集団バイアスを引き起こすのです。
この考えは、内集団バイアスを説明するための理論として、1979年に心理学者のタージフェルとターナーによって提唱されました。
参考文献:H. Tajfel, and J.C. Turner, An integrative theory of intergroup conflict. In: W.G. Austin and S. Worchel (Eds.), The social psychology of intergroup relations. Brooks/Cole., Monterey, 1979, pp. 33-47.
現実的利害対立理論
自分のグループが、別のグループと利害対立関係にあると、内集団バイアスが強くなることがあります。
具体例を挙げると、日本と韓国に政治的な対立が発生して関係が悪化すると、日本びいき&韓国敵視のような考えの人が増えてくると思います。
このような傾向は、特に限られた資源を奪い合う状況、つまりゼロサムゲームでより強まることが分かっています。
例えば、徴用工問題で、韓国の裁判所から日本の三菱重工の資産差し押さえ命令が出たときは、日本人の韓国への敵対意識はとても強まったのではないかと推測されます。
このように、自分のグループの利益が、他のグループに脅かされそうになると、それを守るために内集団バイアスが強まるのです。
参考文献:R.A. LeVine, and D.T. Campbell, Ethnocentrism: Theories of conflict, ethnic attitudes and group behavior, John Wily & Sons, New York, 1972.
集団協力ヒューリスティック仮説
「自分の善い行動がグループの仲間から報われて欲しい」と期待することが、内集団バイアスを発生させる要因なっている場合があります。
例えば、あなたが「職場の同僚から旅行のお土産をもらいたい」と思ったら、どう行動しますか?
それは、まず自分が旅行に行ったときにお土産を買ってきてあげればよいのです。
これはあなたも、自然と分かっていることでしょう。
このように、多くの人は、グループ内で仲間に奉仕することは、自分の利益となって返ってくるだろうと期待しています。
一方で、他のグループの人へ奉仕は、自分の利益には繋がらないだろうと予想します。
この期待の差が、仲間へのひいき、つまり内集団バイアスとなって現れているのです。
この理論は、北海道大学の山岸教授らによって提唱されました。
参考文献:T. Yamagishi, N. Jin, and T. Kiyonari, Bounded generalized reciprocity: Ingroup boasting and ingroup favoritism, Advances in Group Processes, 16 (1999), 161-197.
内集団バイアスの具体例
我々は社会で生活するうえで、なんらかのグループに属しています。
例えば、企業、学校、国家、自治体など、さまざまなものがあります。
そして、人は時と場合に応じて、特定のグループへの所属意識が高まり、内集団バイアスが発生します。
では、実際にどのようなグループで内集団バイアスが発生するか、見ていきましょう。
民間 VS 公務員
グループ内の利害が対立すると、内集団バイアスが強く現れる場合があります。
例えば、民間で働いている人の一部は、公務員に対してネガティブなイメージを持っています。
- 公務員の仕事は楽だ
- 定時になったらすぐ帰る
- 税金の無駄遣いをしている
これは、公務員のお給料が国民の税金から支払われていることに起因すると考えられます。
つまり、民間人の「我々は公務員から税金という負担を強いられている」という被害者意識が、公務員への敵対的な態度となって現れているのです。
出身地が同じ
出身の都道府県が同じである場合も、内集団バイアスによるひいきが発生する場合があります。
例えば、大阪の出身者は、東京で頑張って働いている同じ大阪人を見かけると、つい応援したくなるそうです。
また、大学でも「県人会」と称して、出身県の同じ者同士が集まり、親睦を深めるという古くからのならわしもあります。
これらも内集団ひいきと言えるでしょう。
若者 VS 高齢者
内集団バイアスが強い人は、外のグループの人たちのことを「みな同じ」と考えてしまう傾向があります。
その結果、一部の高齢者は
「最近の若者はけしからん!」
と若者を一緒くたに扱ってしまいます。
逆に一部の若者は、「老害」という高齢者をけなすような言葉を用いて、反抗する人もいます。
このように、内集団バイアスによって、世代間対立が生じていると言えるでしょう。
同じ大学の卒業生
社会人になると、同じ大学の卒業生というグループが、心理的な線引きとなる場合があります。
例えば、採用面接のときに面接官が同じ大学の出身者を無意識に優遇したり、新人研修のときに先輩社員が同じ大学の後輩社員の面倒見が良かったりするケースがあります。
現在は、すでに大学を卒業してしまっているにも関わらず、過去同じ大学に通っていたという境遇が、日本社会では大きな意味を持っていると言えるでしょう。
外国人に日本の良いところをインタビューするTV番組
内集団バイアスは愛国心を強めるとも言われています。
参考文献:R. Kosterman, and S. Feshbach, Toward a measure of patriotic and nationalistic attitudes, Political Psychology, 10 (1989), 257-274.
これは、自分のグループへの愛着が強まったり、優越性を示したいと思ったりするからです。
例えば、日本人のイイところを強調するようなテレビ番組が最近見受けられます。
このような番組では、外国人にインタビューして、日本人のすごさを聞き出しています。
これによって、日本人のグループの優越欲を満たし、愛国心を強めているのではないでしょうか。
内集団バイアスの克服法
内集団バイアスは、さまざまなデメリットを生む可能性があります。
例えば、グループのメンバーは、いかに他グループより優位に立つかを考えてしまう傾向があります。
つまり、グループのメンバーは、自分のグループの絶対的利益よりも、他グループとの相対的利益を重視してしまうのです。
この傾向は、自分のグループの利益が少なくなっても、優位に立つことを優先してしまうようです。
このように、合理的に考えれば得られるはずの利益が、他グループに勝ちたいという欲望のせいで、本来より少なくなってしまうのです。
では、内集団バイアスはどうすれば克服できるのでしょうか?
上位グループを作る
2つのグループが対立しているときは、そのグループを包括するような上位のグループを形成することにより内集団バイアスを抑制することができます。
参考文献:S.L. Gaertner, and J.F. Dovidio, Reducing intergroup bias: The common ingroup identity model, The Psycholgy Press, Philadelphia, 2000.
例えば、化学メーカーで開発部と研究部の仲が悪いのならば、研究開発部として部署をまとめてしまえば、わだかまりも小さくなる可能性があります。
要するに、内集団バイアスは自分のグループメンバーに対して働くので、自分のグループの認識を広げてしまえばよいということです。
達成困難な目標を与える
2つのグループが対立している場合、ただ協力させるだけでは仲良くならないことが分かっています。
しかし、2つのグループに協力しないと達成できないような困難な目標を与えることによって仲間意識が強まると言われています。
参考文献:M. Sherif, O.J. Harvey, B.J. White, R.W. Hood, and C.W. The robbers cave experiment: Sherif, Intergroup conflict and cooperation, Wesleyan University Press, Middletown, 1961.
例えば、ある高校で女子グループと男子グループの仲が悪いのならば、「学園祭の出し物で1位を獲る」という目標を与えれば、その過程で徐々に仲良くなっていきます。
このように、上位目標を与えることで、内集団バイアスを軽減させることもできるのです。
相手をよく知る
偏見が強まると、内集団バイアスに陥ることがあります。
これは、相手のことをあまり分かっていないからです。
例えば、地方に住んでいる人は、
- 東京は怖い
- 東京の人は冷たい
などの悪いイメージを持っている場合があります。
これを克服するためには、相手のグループの情報を得る必要があります。
相手を知ることによって「実はこうだったんだ」と勘違いを解消させることができます。
その結果、外集団への敵対的意識を減らし、内集団バイアスを抑制することができるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事では、内集団バイアスについていくつかの文献をまとめてみました。
要点は以下のとおりです。
2つのグループに共通の困難な目標を与える
相手のグループをよく知る
最後までお付き合いいただきまして、感謝いたします。