ふむふむ心理学

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バイアス教育と心理学のブログ

【注意バイアス】の重要な実験パラダイム3選

人は、何かに対して注意が向きやすくなる性質を持っています。

たとえば、

・クモ嫌いの人が、視界を一瞬だけ横切った小さな黒いモノに過敏に反応する

・禁煙中の人が、タバコという言葉やタバコに似た形に敏感になる

これらを、注意バイアス(バイアス:思考の偏り)といいます。

本記事では、注意バイアスの定義や注意バイアスを測定するための実験パラダイムについて、専門的かつ分かりやすく解説していきます。

◇ 出てくる用語・簡単まとめ ◇
注意バイアス
英語でAttentional bias
特定の外部刺激に注意が向かいやすくなること
脅威に対する注意バイアスと報酬に対する注意バイアスに大別されるが、脅威に対して使われる場合が多い
脅威に対する注意バイアス
英語でThreat-related attentional bias
脅威刺激(例:クモ、怒った顔)に対して注意が向かいやすくなること
特に不安な気分のときに強く現れる
別名、不安バイアス脅威バイアスともいう
報酬に対する注意バイアス
英語でSubstance-related attentional bias
報酬刺激(例:タバコ、酒)に対して注意が向かいやすくなること
特にその報酬の渇望状態のときに強く現れる

注意バイアス

注意バイアスの発見

1986年に心理学者コリン・マクリードらは、

「不安を持つ人たちは、脅威を表す単語に対して注意が向かいやすくなる」

ということを発見し、彼らはそれを『注意バイアス』と呼びました。(参考:MacLeod et al., 1986*1

その後、単語だけでなく、怒った人の顔写真やクモの絵といった脅威刺激にも注意が向かいやすくなることもさまざまな研究から実証されています。

つまり、注意バイアスとは、

「気分が不安なときには、怖いものや危険なものへ注目しやすくなる」

ということです。

たとえば、

  • お化け屋敷でビクビクしているときは、視界の隅をわずかに動くものにさえ敏感に反応する
  • 大学受験の勉強で精神的に不安になっているときは、「落ちる」という言葉にとても過敏になる
  • 虫が大嫌いな人は、小さな虫でさえすぐ気づく

このように、精神的に疲れている人や何かの恐怖症の人などの不安状態の強い人は、危険を察知するセンサーが過敏に働くのです。

◇ ポイント! ◇
その後の研究で、脅威だけでなく報酬(食べ物や嗜好品)へも注意バイアスが働くことが発見されました。
たとえば、禁酒中の人は、お酒に関する刺激に注意が向きやすくなります。
報酬に対する注意バイアスの詳細は、本記事の『7. 報酬刺激への注意バイアス』までお進みください。

注意バイアスの特徴

脅威に対する注意バイアスに関する実験で、次のようなことが明らかになっています。

・軽微な危険にも注意を向ける

・脅威をすばやく見つける

・脅威を見ると、少しの間フリーズし、目が離せなくなる

・フリーズの後、今度は急速に目を背ける

・不安な気分のときに注意バイアスが強くなる

もしも部屋の中で、あの黒光りする虫を発見したら、上記のような反応を取るのではないでしょうか?

注意バイアスの実験パラダイム3選

注意バイアスがどれだけ大きいかを調べるために多くの研究者がさまざまな方法を開発してきました。

代表的なものに

  • 情動ストループ課題
  • プローブ検出課題
  • キューイング課題

これら3つを詳しくご紹介しましょう。

情動ストループ課題

情動ストループ課題とは?

注意バイアスの測定方法として最も有名なものです。

まず、情動ストループ課題の被験者には、色のついた単語が提示されます。

たとえば、ピンク色で「苦痛」という文字が表示されます。

被験者は単語の意味を無視して、何色かをできるだけ早く答えなくてはなりません。

このとき、中性語(例:住宅、通貨、森林)に比べて脅威語(例:自殺、恐怖、憂鬱)のいろの回答時間が長いほど、脅威に対して注意が大きく向けられていることを表しています。

要するに、脅威に対する注意バイアスが大きいということです。

(参考:Williams, Mathews & MacLeod, 1996*2

プローブ検出課題

プローブ検出課題とは?

プローブ検出課題は、1986年に心理学者コリン・マクリードらが行った実験です。

プローブ検出課題では、まずコンピューターのモニターの上半分と下半分に、それぞれ脅威語と中性語のペアが0.5秒間表示されます。

その後、2つの単語は消えて、代わりにモニターの上か下のどちらか一方に、小さな点が出現します。

被験者は、手元のボタンで、できるだけ早く上か下かを回答します。

注意バイアスが大きい場合は、モニター上の脅威語の方に注意が向いているので、脅威後の位置に点が出てきたときにすばやく反応できます。

反対に、モニターの中性語の位置に点が出てきたときは、反応が遅れてしまいます。

この時間の差が大きいほど、注意バイアスが大きいことを表しています。

(参考:前述のMacLeod et al., 1986)

キューイング課題

キューイング課題とは?

キューイング課題は、心理学者エレーヌ・フォックスらが実施した注意バイアスの測定法です。

このキューイング課題は、「注意バイアスが大きい人は、一旦脅威刺激を目視すると、しばらくの間目が離せなくなる」という仮説に基づいて行われました。

まず、モニター画面の中央に単語が提示されます。

その0.6秒後、単語の上下左右のどこか一か所に一瞬(0.05秒)だけ「X」か「S」よ文字が現れます。

被験者には、どの位置に「X」もしくは「S」が出現したか、すばらく答えてもらいます。

このとき、脅威語に視点がロックされて回答に時間がかかれば、注意バイアスが大きいということになります。

(参考:Fox et al., 2001の実験5*3

ヒトが注意バイアスを持つ理由

なぜ人は不安になると脅威に対して注意を向けやすくなるのでしょうか?

実は、注意バイアスを持つのはとても自然なことです。

なぜなら、不安な状態のときに、脅威に注意を払うことは、危険から身を守るためにとても重要だからです。

たとえば、原始の時代、茂みに隠れている猛獣をいち早く発見することは生死に直結したことでしょう。

つまり、注意バイアスは人間が生存するための必要なシステムであると考えられます。

注意バイアスが起こるメカニズム

注意バイアスの最も重要な特徴は、脅威に対して一時的に視線が釘付けになってしまうことです。

ではどうして脅威刺激から目線を逸らすことができなくなってしまうのでしょうか?

心理学者エレーヌ・フォックスらは、動物ならみな持っている「凍りつき反応」が原因ではないかと考察しています。

ほとんどの動物は、危険と突然遭遇したときに一瞬身動きが取れなくなってしまいます。

これを凍りつき反応といいます。

たとえば、いきなりライオンと鉢合わせた動物は、短い間フリーズします。

これはなぜかと言うと、捕食者を前にしてアレコレ考えすぎたり、余計な動きをしたりすることは、かえって危険だからです。

つまり、注意バイアスによって脅威刺激から少しの間目線が離脱できないのは、動物の自然な反応というわけです。

注意バイアスのデメリット

心理学者エレーヌ・フォックスらによると、強すぎる注意バイアスはストレスを増大させる可能性があると指摘しています。

注意バイアスが大きいと、ストレスの原因である脅威刺激に長時間意識を集中させることになります。

このことが、さらなる不安の維持や不安の増大につながる恐れがあります。

一方、脅威からすばやく目を逸らすことができる人は、不安から来るストレスを抑えることができます。

このように、注意バイアスが強いことは、メンタルヘルス的にあまり良くないと言えるでしょう。

報酬刺激への注意バイアス

心理学者コリン・マクリードらによって注意バイアスが提唱されてから、さまざまな研究が行われ、今では食べ物やアルコール、タバコといった報酬刺激への注意バイアスも確認されています。

たとえば、禁煙中の人はタバコに関係のあるものに注意が向かいやすくなります。

現在は、脅威刺激への注意バイアス報酬刺激への注意バイアスを区別するために、

前者をThreat-related attentional bias

後者をSubstance-related attentional bias

と呼んでいます。

報酬に対する注意バイアスの特徴は、

・身体が欲しているものに注意を向けやすくなること

・渇望状態のときに強く現れること

です。

これは、脅威への注意バイアスと同様にヒトの生存本能と言えます。

なぜなら、渇望状態のときに、食べ物や嗜好品に注意を向けることは、食料を確保し生き残るために必要なことだからです。

(参考:Field & Cox, 2008*4; Zvielli et al., 2015*5

最後に

今回、特定の外部刺激に対して注意を払いやすくなる性質「注意バイアス」についてご紹介しました。

人は常に世の中の膨大な情報にさらされています。

その中から本当に必要な情報を抜き取ることは容易ではありません。

注意バイアスは、たくさんの視覚情報の中から生き残るために必要な情報だけをピックアップしてくれる便利なツールなのかもしれません。

*1:C. MacLeod, A. Mathews, and P. Tata, Attentional bias in emotional disorders, Journal of Abnormal Psychology, 95 (1986) 15-20.

*2:J.M.G. Williams, A. Mathews and C. MacLeod, The emotional Stroop task and psychopathology, Psychological Bulletin 120 (1996) 3-24.

*3:E. Fox, R. Russo, R. Bowles and K. Dutton, Do threatening stimuli draw or hold visual attention in subclinical anxiety?, Journal of Experimental Psychology: General, 130 (2001) 681–700.

*4:M. Field and W.M. Cox, Attentional bias in addictive behaviors: A review of its development, causes, and consequences, Drug and Alcohol Dependence, 97 (2008) 1-20.

*5:A. Zvielli, A. Bernstein and E.H.W. Koster, Temporal dynamics of attentional bias, Clinical Psychological Science, 3 (2015) 772-788.