行為者-観測者バイアスとは?【社会心理学用語を10分で理解】
-あなたのまわりに、他人のミスには厳しいのに、自分にはとても甘い人はいませんか?
もしかすると、それは行為者-観測者バイアス(バイアス:偏り)の影響かもしれません。
本記事では、
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行為者-観測者バイアスとは何か?
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起こる原因は何か?
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どのような具体例があるか?
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どんなデメリットがあるか?
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どうすれば克服できるのか?
などについて、分かりやすく解説していきます。
行為者-観測者バイアスとは?
(別名:観測者バイアス)
要するに、まったく同じ行動でも、自分の立場が「行為者なのか?」「観測者なのか?」によって、その行動に対する見え方が変わるというバイアスです。
さらに、このバイアスは失敗時に強く現れる傾向があると言われています。
つまり、「自分の失敗は状況のせいだと考え、他人の失敗はその人自身のせいだと考える」ということです。
例えば、もしあなたが健康診断の結果、悪玉コレステロール値が基準値をオーバーしていたら、
・太りやすい家系だからしょうがない
・年齢的に代謝が衰えてきているのだろう
・自分はもともとコレステロール値が高い体質だ
などと、自分ではコントロールできない外的な部分に原因を求めるでしょう。
一方で、これとまったく同じ健康診断の結果が、あなたの友人のものだとしたら、
・きっと乱れた食生活をしているのだろう
・運動なんてしていないのだろう
・自己管理ができない人なのだろう
などと、本人の行動に問題があると考えてしまいませんか?
このように、行為をした側の立場とそれを観察した側の立場では、物事の捉え方がまったく異なってしまうのです。
行為者-観測者バイアスが起こる2つの原因
なぜ、自分の立場が「行為者か、観測者か」によって考え方が変わってきてしまうのでしょうか?
その答えは、行為者と観測者の「情報量の違い」と「視点の違い」です。
それでは、その詳細についてご紹介します。
情報量の違い
行為者と観測者では、行為者の行動に関する情報量がまったく異なります。
行為者の方が情報をたくさん持っているという状況が、行為者-観測者バイアスを引き起こしていると言われています。*2
例えば、あなたがエスカレーターに乗っていると、乱暴にエスカレーターを駆け上がってくる男性がいました。
おそらくあなたは、
・とても失礼な人だ
・せっかちな性格なのだろう
・時間にルーズだからそんなに急いでいるんだろう
などと、駆け上がって来る原因を、その人の性格に由来すると考えるしかないでしょう。
なぜなら、あなたは「エスカレーターを駆け上がってくる人」という情報しか知らないからです。
しかしその男性からすると、
・産婦人科に向かっている
・子どもが産まれそう
・走らないと間に合わない
というような、背景にあるさまざまな情報を知っています。
その中から、「なぜ走っているのか?」という疑問に対して最も適切な状況的理由を簡単に説明することができます。
このように、情報量の差が行為者-観測者バイアスを引き起こしているのです。
視点の違い
行為者-観測者バイアスが引き起こされるもう一つの原因は、「視点の違い」です。*3
つまり、一人称視点で物事を見ているのか、俯瞰して見ているのかの違いによって、原因の捉え方が変わってくるのです。
例えば、あなたはとてもイライラしていて、スマホを叩き付けてしまったとします。
あなたの視覚には、割れたスマホしか映りません。
しかし、それを周りで見ている人からすると、割れたスマホ以外にも
・あなたの怒った表情
・イライラした仕草
・荒々しい態度
がはっきり見えています。
自分からは見えないそのような行動が、他人の目にはくっきりと映ります。
そのため、観測者は内面的な要因に帰属しやすくなり、反対に行為者は状況的な要因に帰属しやすくなるのです。
行為者-観測者バイアスの具体例は?
行為者-観測者バイアスは多くの人が持ち合わせている心理傾向です。
そのため、日常生活のあらゆるシーンで目にすることがあります。
それでは、実際どのような具体例があるか見ていきましょう。
職場での例
もし、あなたの部下のデスクが書類で山積みになっていたとしたら、あなたはどう思いますか?
おそらくあなたは、
「だらしないなぁ、書類も片付けられないのか。」
と思うでしょう。
つまり、片付けられない原因をその部下の人格的な部分に求めているのです。
一方で、今度はあなた自身の机が書類だらけになっている場合はどうでしょう?
おそらくあなたは、
「仕事が忙しくて、片付けるヒマがない。」
と思うのではないでしょうか?
つまり、部下のときとは異なり、まわりの状況のせいにしてしまうはずです。
学校での例
あなたは、学校の定期テストでとても悪い点を取ってしまいました。
すると、あなたは、
「あまり勉強しなかった範囲からいっぱい出題されて、運が悪い。」
と運のせいにするでしょう。
一方で、あなたの友人が同じように悪い点数を取っていたならば、あなたはどう感じるでしょうか?
「真面目にテスト勉強してこなかったな。」
と、本人の怠慢さを理由にしてしまうでしょう。
家庭での例
あなたが自宅に帰ってくると、玄関の鍵が開いていました。
おそらくあなたの配偶者が鍵をかけ忘れて外出してしまったのでしょう。
このときあなたはどう思いますか?
「ドジだな~」
とパートナーの性格を一番に思い浮かべるのではないでしょうか。
一方で、自分が同じミスをした場合はどう感じますか?
「とても急いでいたから仕方ない」
と状況的な理由づけをするでしょう。
デメリットとその対策
あなたの近くに、行為者-観測者バイアスの強い人がいるならば注意が必要です。
なぜなら、あなたの失敗はすべて内的要因に帰属されてしまうからです。
別の言い方をすると、あなたに何らかの特別な事情があって仕方なく失敗してしまったことでも、その人からするとあなた自身に落ち度があると思ってしまいます。
例えば、あなたが大学の学生だったとします。
1限目の講義に向かう途中に、道でお財布を拾い交番に届けました。
そのせいで講義に間に合いませんでした。
おそらく、講義を担当している教授は、
・サボりだな
・寝坊だな
・気がたるんでいるな
などと考えるでしょう。
しかし、これはしょうがないことでもあります。
とは言え、誰しもこう思われたくはないですよね?
そのためには、事前に情報を与えるべきです。
遅刻しそうになったら、先生や友人に連絡をして、事情を説明しましょう。
そうすれば、「サボった」とは思われなくなります。
このように、相手に適切な情報を伝えることにより、あなたへの理不尽な誤解は簡単に解けるでしょう。
行為者-観測者バイアスを克服するには?
行為者-観測者バイアスの傾向が強い人には、あまり接したくありませんよね?
同じように、もしあなたのバイアスが強かった場合、周囲の人たちから嫌われてしまうかもしれません。
そうならないためにも、いくつかの克服法をお教えします。
バイアスを日ごろから意識する
行為者-観測者バイアスを知り、日ごろから意識することで、あなたの自己中心的な態度を改善することができます。
この方法は、他の認知バイアスでも有効な手段として用いられています。
例えば、人の失敗を目にしたときは、このバイアスを思い出すようにしてください。
そうすれば、行為者-観測者バイアスの影響を和らげることができます。
時間をおいて考える
短い時間で判断すると行為者-観測者バイアスが強く現れやすいと言われています。
そのため何か失敗が起こっても、いったん時間を置き、冷静になってからもう一度よく考えてみましょう。
例えば、誰かのミスを見つけてしまっても、それをすぐに指摘するのではなく、冷静に状況を整理しましょう。
そうすれば、感情的な意見にならずに正しい判断ができると思います。
失敗の原因を本人に聞く
もし、まわりの誰かがミスをしてしまったら自分一人で勝手に推論するのはよくありません。
失敗の原因を本人やまわりの人に聞いてみましょう。
さまざまな人の意見を聴いた上で、総合的に判断すれば、より公平な考えを持つことができるでしょう。
相手のミスを自分の立場に置きかえてイメージする
あなたの知り合いが、何か失敗をしてしまったら、自分に置きかえて想像してみましょう。
最初はなかなかイメージしづらいかもしれません。
しかし、何度もチャレンジするうちに、相手の気持ちをより理解できるようになります。
また、日ごろから何気ないコミュニケーションを取り、相手の内面を知っておくこともイメージのしやすさに繋がるかもしれません。
まとめ
本記事では、自分勝手な考えを持つ原因である「行為者-観測者バイアス」という心理学用語についてご紹介しました。
簡単にまとめると以下のようになります。
②行為者と観測者の「視点」の違い
②時間をおいて考える
③失敗の原因を本人の尋ねる
④自分の立場に置きかえて考える
いかがでしたでしょうか?
本記事の内容が少しでもあなたのお役に立てたならば幸いです。
参考文献
*1:E.E. Jones, R.E. Nisbett, The actor and the Observer: Divergent perceptions of the causes of behavior, In: E.E. Jones, D. Kanouse, H.H. Kelley, R.E. Nisbett, S. Valins, B. Weiner (Eds.), Attribution: Perceiving the causes of behavior, General Learning Press, New York, 1972, pp.79-94.
*2:S.V. Eisen, Actor–observer differences in information inference and causal attribution, Journal of Personality and Social Psychology, 37 (1979), 261-272.
*3:M.D. Storms, Videotape and the attribution process: Reversing actors' and observers' points of view, Journal of personality and social psychology, 27 (1973), 165-175.