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バイアス教育と心理学のブログ

【自己奉仕バイアスとは?】10分で要点・対処法を分かりやすく解説

あなたの周りには、失敗は他人に押し付けるのに、手柄は独り占めするような性格の人はいませんか?

また、成功談は自慢げに話すのに、ミスは「運が悪かった」の一言で済ますような人はいませんか?

このように、自分にだけ都合が良いように考えてしまう思考傾向を、心理学では「自己奉仕バイアス(バイアス:偏り)」と呼んでいます。

この自己奉仕バイアスを持っている人は、多くの人から嫌われてしまうかもしれません。

本記事では、そんな自己奉仕バイアスについて、分かりやすく解説していきます。

自己奉仕バイアスとは?

 

自己奉仕バイアスとは?

自己奉仕バイアスとは、「成功の原因を自己の内部に帰属し、失敗の原因を外部に帰属する」という心理傾向です。*1

 

自己の内部に帰属とは、言い換えると「原因を自分の能力のおかげ」と考えることです。

自己の外部に帰属とは、「原因を周りの環境や運のせい」にすることです。

つまり、自己奉仕バイアスは、成功したときには自画自賛し、失敗したときには自分の非を認めない傾向と言えるでしょう。

要するに、「自己中(じこちゅう)」ということです。

自己奉仕バイアスは、少なからず誰しもが持っている性質だと言われています。

自分にあまく、他人に厳しいという性質が強い人は、特にこの自己奉仕バイアスが顕著に現れている証拠かもしれません。

自己奉仕バイアスの具体例は?

自己奉仕バイアスは多くの人が持っている性質であるため、日常のさまざまなシーンで目にすることがあります。

例1:学校の期末テスト

自己奉仕バイアスが強い人は、期末テストの点数次第で態度が180°変わります。

もしテストで高得点を取ったとしたら、

「一生懸命勉強したおかげだ」

と結果を自分の内面に関連付けるでしょう。

一方で、テストが赤点だった場合には、

「出題された問題が悪い」

と、外部環境のせいにしてしまうでしょう。

例2:株式の売買

自己奉仕バイアスが働くと、「儲かったか」「損したか」で株式の売買への感じ方も変わってきます。

特定の株式を購入した数日後に、もしその株の価格が上昇したら、

「私の読みどおりだ」

と自分を褒めるでしょう。

一方で、もし株価が下がっていたら、

「あの証券マンのレポートはあてにならないな」

と参考にした資料に文句をつけるでしょう。

例3:ギャンブルの勝敗

例えば、パチンコで運良く勝ちが続いて、大きく儲けることができたら、

「パチプロ目指そうかな」

と自分の能力を過信してしまうかもしれません。

しかし、負けが続いたら

「最近ツイてないな」

と運のせいにするでしょう。

このような性質が自己奉仕バイアスです。

 

自己奉仕バイアスが生じる要因とは?

自己奉仕バイアスはどうして働くのでしょうか?

その要因として「自己呈示(self-presentation)」と「自己高揚(self-enhancement)」という2つの心理現象が関係していると考えられています。

【要因①】自己呈示(セルフプレゼンテーション)

他人から好印象に思われたいという欲求から、人は他人の目を気にして着飾った振る舞いをすることがあります。
これを心理学では「自己呈示」と呼んでいます。

この自己呈示によって自己奉仕バイアスが作り出されていると言われています。*2

つまり、周囲の人から良く思われたいという気持ちが、自己奉仕バイアスを生んでいるのです。

例えば、あなたが小学校の運動会でクラス対抗リレーの選手に選ばれたとします。

多くの人は、みんなから足が速いと思われたい願望を持っているはずです。

しかし、本番でみんなが観ている前で他のクラスの選手に抜かれてしまいました。

すると、あなたは足が遅かったという事実から目を背け、

「いつもはもっと速く走れるのに」

「体調が良くなかったせいだ」

などと見栄を張って、友達からのイメージダウンを必死で阻止するでしょう。

この例では、他人からの印象を気にして、ネガティブな出来事を外部に帰属しようとしています。

つまり、自己呈示が原因となり自己奉仕バイアスが生じていると言えるでしょう。

【要因②】自己高揚(セルフエンハンスメント)

人は自分の自尊心を高く保ちたいという欲求から、たとえネガティブな出来事が起こったとしても、自分に都合よく解釈しようとします。
これを心理学では「自己高揚」と言います。

この自己高揚も自己奉仕バイアスの原因の一つとされています。*3

例えば、あなたが大学から依頼を受けて、多くの学生の前で講演を行ったとします。

あなたが話し始めて10分も経たないうちに、多くの学生が机に伏して寝てしまいました。

このとき、「私の講義は寝るほどつまらないのか」と考えてしまうと、自尊心が大きく傷ついてしまいます。

そこで、「ここの大学の学生は本当に不真面目だ」

または、「昼食後の時間だから眠いのも無理はない」

などと、自分のプライドを保つために、無理やり都合の良い理由を探してしまうでしょう。

このように、人は自分の自尊心が傷つかないように努めた結果、それが自己奉仕バイアスとなって現れてしまうのです。

自己奉仕バイアスのデメリット

自己奉仕バイアスは、自分のプライドを守ったり、満足感を得たりすることによって心理的な健康を維持できるというメリットがあります。

しかし、その代わりに以下のようなマイナス面もあるので注意が必要です。

人間関係に悪影響を及ぼす

自己奉仕バイアスが強い人は、人間関係を悪化させる恐れがあります。

例えば、新婚のカップルが買い物に出かけました。変える頃に大雨が降ってしまいました。家に着くとリビングがびしょびしょに濡れていることに気がつきました。

2人は出発前に戸締りを忘れてしまっていたのです。

夫は、

「いつもお前が戸締りの確認をしているのだから、これはお前のせいだ」

と責めるかもしれません。

一方で妻は、

「あなたこそ何も準備しないでヒマそうにしていたのだから、戸締りの確認ぐらいできたんじゃないの?」

と反論するでしょう。

このようにお互いに失敗を認めない場合には、人間関係を最悪なものにしてしまう恐れがあります。

周囲の人からの信頼をなくす

自己奉仕バイアスによって、まわりから信頼を失うことになるかもしれません。

例えば、職場で会計処理のミスをしてしまったことを思い浮かべてください。

自己奉仕バイアスが強く作用している場合、

「仕事が忙しすぎるからミスしてもおかしくない」

「前任の担当者がきちんと引き継ぎをしてくれなかったせいだ」

などと、失敗の原因を外部に求めるでしょう。

この人は、それでプライドを守ることができて満足かもしれませんが、周り人から

「もうあの人に会計処理を任せるのはやめよう」

と信頼を失墜させてしまうでしょう。

失敗から学べない

人は失敗から多くのことを学習します。

これは、失敗の原因を正しく分析して、次は成功させようと努力するからです。

自己奉仕バイアスが強い人は、失敗を自分の責任ではないと思い込むため、失敗から得られる知見が極めて少なくなります

例えば、雨の日の運転中に歩行者を引いてしまい、ケガをさせてしまったとします。

すると、

「雨で視界が悪かったからしょうがない」

「こんなところを歩いている歩行者が悪い」

などと考え、自分の運転技術の未熟さに目を向けることはしないでしょう。

その結果、また同じような交通事故を起こしてしまうかもしれません。

自己奉仕バイアスの克服法

あなたは、ここまでの内容に心当たりはありましたか?

もし、少しでも当てはまるのであれば、以下のような対策を講じるべきです。

客観的に自分を見つめ直す

何か失敗が起きてしまっても、感情的に原因を探ろうと急いではいけません。

一度冷静になって、客観的事実に基づいて失敗の理由を考えてみましょう

少し時間を置いてから考え直すのも良い手かもしれません。

そうすれば、独りよがりな考えには至らずに、正しい結論が導き出せるでしょう。

バイアスの存在を意識する

自己奉仕バイアスのことを知ったのであれば、出来事の原因調査を意識的に公平に行うように心がけてみましょう。

例えば、「自己奉仕バイアスに気をつけよう」

日頃から意識することで、あなたの行動は大きく変わるかもしれません。

三者に意見を求める

自己奉仕バイアスから来る身勝手な考えは、自分で気づくことが難しい場合もあります。

そのようなときは、起こった出来事の原因について、第三者に聞いてみましょう。

もしかしたら、その意見によってはあなたをイライラさせてしまうかもしれません。

しかし、出来事を客観的に見れる三者の意見は、公平性が高いため、大いに参考にするべきでしょう。

自己奉仕バイアスが強い人への対処法

あなたの周りには、自己奉仕バイアスが強い人はいませんか?

身近な人が、自分勝手な行動ばかりする人であった場合、とても大変だと思います。

ぜひ、以下の対処法を試してください。

関わらないように距離をとる

自己奉仕バイアスが強い人への1番の対策は、できるだけ関わり合いを少なくすることです。

失敗の要因を外部に求める人は、もしかするとあなたに責任を押し付けてくるかもしれません。

できる限り距離を置くことで、あなたが損を被る機会を最小限に抑えることができるでしょう。

証拠を残しておく

自己奉仕バイアスが強い人との関わりがどうしても多くなってしまう人は、客観的な記録として小まめにメモを取るようにしましょう。

例えば、取引先と仕事の約束をしていても、メモを取っていなければ、各個人の記憶を頼りにするしかありません。

何かミスが起こった場合は、「言った、言わない」の水掛け論に発展する可能性もあります。

このような場合に備えて、経緯をメモしておくクセをつけましょう。

そうすれば、理不尽なミスを押しつけられることもなくなるのではないでしょうか。

まわりを味方につける

あなた一人の力では、どうにもならないこともあります。

そのような場合は、周囲の人に相談してみましょう

案外、周りの人たちもあなたとおなじ気持ちかもしれません。

自己奉仕バイアスが強い人は、周囲から浮くのでとても悪目立ちします。

まわりの人を味方につけて、共同でマークすれば、あなた一人で戦っているという認識が薄れて、肩の荷が降りることでしょう。

まとめ

本記事では、自己奉仕バイアスの定義、原因、具体例、デメリット、克服法、対処法についてご紹介しました。

簡単にまとめると以下のとおりです。

【定義】
自己奉仕バイアスとは、「成功の原因を自己の内部に帰属し、失敗の原因を外部に帰属する」という心理傾向
【原因】
自己奉仕バイアスが引き起こされる要因として「自己呈示」と「自己高揚」という2つの心理現象が関与しています。
【デメリット】
・人間関係を悪くさせる
・人から信頼を失う
・失敗経験から学習できない
【克服法】
・冷静に考える
・バイアスの存在を意識する
・他人に意見を求める
【自己奉仕バイアスが強い人への対処法】
・距離をおく
・証拠を残しておく
・まわりを味方につける

いかがでしたでしょうか?

自己奉仕バイアスは多くの人が持っているにも関わらず、とても厄介なものです。

本記事で学んだことをぜひこれからの生活に活かしてください。

 

参考文献:

*1:D.T. Miller, M.Ross, Self-serving biases in the attribution of causality : Fact or fiction?, Psychological bulletin, 82 (1975) 213.

*2:G.W. Bradley, Self-serving biases in the attribution process : A reexamination of the fact or fiction?, Journal of personality and social psychology, 36 (1978) 56.

*3:C. Sedikides, M.D. Alicke, Self-enhancement and self-protection motives. In:R.M. Ryan (Eds.), The Oxford handbook of human motivation, Oxford University Press, 2012, pp. 303-322.