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バイアス教育と心理学のブログ

【センメルヴェイス反射とは?】起こる原因と具体例を分かりやすく解説

私たちが今、当たり前のように享受しているこの便利で豊かな生活は,過去の天才たちが偉大な発明や発見をしてくれたおかげでもあります。
例えば、電気やコンピュータ、電話、機関車といった発明は、当時の人たちからするととても革新的なアイデアだったと思います。

これらが姿形を変え,今や私たちの生活にはなくてはならないものになったのです。

ところが、このような歴史的大発明は、たいがい最初は疑われたり、反発されたり、ひどい場合にはバカにされたりして、なかなか民衆に受け入れられませんでした
本記事では、なぜ人は他人の新しいアイデアを否定するのか?
センメルヴェイス反射とは何なのか?
について分かりやすくまとめました。

センメルヴェイス反射とは?

センメルヴェイス反射とは?

センメルヴェイス反射とは、
今までの考えに固執し、それに反する新しい考えを反射的に拒絶する行動傾向です。

 

例えば、あなたは「ヨーグルトは健康に良い」と思っていて、毎朝ヨーグルトを食べているとしましょう。
しかし、友人から「ヨーグルト食べても意味ないよ。食べるのやめな。」と言われたら、あなたはすんなり受け入れますか?
おそらく、すぐには受け入れられずに翌日もヨーグルトを食べるでしょう。
このように、人は自分の信念に反する考えを拒否する傾向があるのです。

センメルヴェイス反射の由来とは?

「センメルヴェイス」は人の名前です。

ハンガリー人の医師イグナーツ・ヒュレプ・センメルヴェイス(Ignaz Philipp Semmelweis, 1818〜1865年)の身に起きた不幸なできごとが、この心理現象のモデルとなっています。


これは、センメルヴェイスがオーストラリアのウィーンの総合病院に勤めていたときの話です。

病院には産科が2ヶ所あり、彼は第1産科で仕事をしていました。

 

当時、第1産科では産褥熱というお産のときに子宮にバイ菌が入ることで発症する感染症による産婦の死亡率が約16%もありました。

しかし、同じ総合病院内の第2産科では、死亡率がたったの約2%しかありませんでした。


この差にセンメルヴェイスはとてもショックを受け、第1産科と第2産科で一体何が違うのか調べました。

すると第1産科では分娩を医学生が行っているのに対して、第2産科では分娩を助産師が行っていることが分かりました。

さらに、第1産科の医学生は、解剖も掛け持ちしていたのです。


また、原因調査中に、同僚のヤコブ・コレッチカ医師が解剖中に誤ってメスで怪我をしてしまい、それが原因で亡くなってしまう事件が発生しました。
この事件をきっかけにして、センメルヴェイスはひらめきました。
「解剖を行った医学生が何らかの感染物質を分娩室に持ち込んでいるのではないか」と。


そして、医学生たちに分娩処置の前には必ず手洗いを徹底するように指示しました。

しばらくすると、見事にセンメルヴェイスの予想が的中し、第1産科では産婦の死亡率が劇的に減少しました。


しかし、当時は手を洗う習慣がなかったことから、医学会の重鎮たちは手洗いの効果を疑問視し、センメルヴェイスの転勤後に、第1産科での手洗いを中止させてしまいました。
そのことを聞いたセンメルヴェイスは、ひどく落ち込んでしまい、鬱病になってしまったといいます。

このストーリーから、「今までの常識に執着して、それに反する新たな常識を拒絶する」傾向をセンメルヴェイス反射と呼ぶようになりました。

参考文献:A. H. Adriaanse, et al., Semmelweis: the combat against puerperal fever, European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology, 90 (2000) 153–158.

センメルヴェイス反射を起こす原因とは?

センメルヴェイス反射が起きる原因は2つあると考えられています。
それは、信念固執(Belief Perseverance)と錯誤相関(Illusionary Correlation)です。

参考文献:V. K. Gupta, et al., Semmelweis Reflex: An Age-Old Prejudice, World Neurosurgery, 136 (2020) 119-125.

原因①:信念固執(Belief Perseverance)

人には自分の信念を貫き通す性質があります。


例えば、子どものころにお兄ちゃんから「理系の人はみんなオタクなんだぞ」という偏見を教えられていたとします。

その子が将来大人になって理系の学部出身の人と出会ったとき、まったくオタクっぽくなくても「きっと何かしらのオタクに違いない」と思い込んでしまうでしょう。


センメルヴェイス反射は、こういった「自分の信念に固執する性質」が原因の一つであると考えられています。
センメルヴェイスが勤めていた病院の上層部でも、「病気を治す職業である医師が、病原体を媒介させているはずがない」という固執した信念がありました。

この当時の医師たちの驕った考え方がセンメルヴェイス反射を引き起こしてしまったのです。

原因②:錯誤相関(Illusionary Correlation)

錯誤相関とは、認知バイアスの一つで「関係のない2つの事柄に関連性がある」と思い込んでしまう心理現象です。
例えば、

  • 「私が傘を忘れたときに限って、いつも雨が降るんだよな~」
  • 「東大生ってみんな理屈っぽい」

ここで、「傘を忘れること」と「雨が降ること」には因果関係がまったくありませんよね。

また東大生だからといって、みんな理屈っぽいとは限りません。

ユーモラスな人もいれば、天然な人もいるでしょう。頭の良さと性格は因果関係がありません。
このように無関係な2つのことを勝手に結び付けてしまう心理傾向が錯誤相関です。


ウィーンの総合病院のベテラン医師たちがセンメルヴェイスの手洗いに反発した理由も、
「医師 = 病原体を持っていない」
という錯誤相関が原因であるといわれています。
実際には、医師であってもヒトである以上は他人に病気を移す可能性は大いにあります。

しかし、当時の医師たちは「我々医師は清潔なのだから、そもそも手洗いなんてする必要ないでしょ!?」という考えだったみたいです。

センメルヴェイス反射の具体例は?

センメルヴェイス反射が起きたといえる具体例をいくつかご紹介します。

コロナ禍における欧米人のマスク着用拒否

2020年1月ごろから世界各地で新型コロナウイルスによる感染者が出没し、爆発的な感染力で瞬く間に世界中に広がりました。

日本では感染予防のためにマスクを付けることが推奨され、流行の初期段階からほとんどの国民は外出時にマスクを付けるようになりました。

ところが、欧米ではマスクの装着率は圧倒的に低く、多くの人がマスクなしで出歩いていました。

当時の大統領ドナルド・トランプ氏もマスクには反対の姿勢でした。

また、マスクをしていない欧米人は、「なぜあんな無意味なことをしているんだ」と、マスクをしている日本人をバカにしていました

この欧米人のマスクに対する反発は、まさしくセンメルヴェイス反射だと考えられます。

しばらくして、欧米ではようやくマスクの有効性が認識され、日本の初期の対応が評価されるようになりました。

抱き癖がつくから赤ちゃんの抱っこはやめなさい」という風潮

1980年代までは、「赤ちゃんを抱っこしてばかりいると抱き癖がつく」という考え方が一般的でした。

抱き癖とは、赤ちゃんが抱っこしないと泣き止まなくなる現象のことです。

しかし、抱っこは赤ちゃんの精神的な成長にとってとても大切なことであり、最近では赤ちゃんをたくさん抱っこしてあげることが推奨されています。

ところが、義理の親が「抱き癖がつくから抱っこはやめなさい」と言ってきて、こちらがいくら説明しても聞き入れてくれないというトラブルが散見されています。

この義母の対応もセンメルヴェイス反射であると言えるでしょう。

練習中の水分補給の禁止

一昔前は真夏の炎天下の中でも、部活動の練習中に水分補給が禁止されていたことは有名な話だと思います。

これは、水を飲まずに厳しい練習をするからこそ、強い精神力が鍛えられるという常識があったからです。

ところが、熱中症による死亡事例が相次いだことから、練習中の水分補給の重要性が認識されました。

しかし、それでもなお一部の体育会系の教師は、水分補給に抵抗感を示したといいます。これもセンメルヴェイス反射の事例でしょう。

新しい学説への反発

センメルヴェイス反射は、研究などの学術分野でよく起こると言われています。

今までの学説をひっくり返すような新しい理論が発表されると、必ず反対意見が出てきます。例えば、

はセンメルヴェイス反射の洗礼を受けたと言えるでしょう。

どうすればセンメルヴェイス反射を回避できる?

これから、あなたが何か新しいアイデアを発表しようとしているのであれば、少し待ってください。

もしかしたらセンメルヴェイス反射の犠牲者になろうとしているかもしれません。

では、どうしたらうまく回避できるのでしょうか?その解決法をご紹介します。

  • 現在普及している考えを否定するのではなく、自分の新しい考えを信頼してくれるような説明の仕方をする。
  • 反対意見の立場に立って、もう一度自分のアイデアを考えてみる。
  • 反対意見を持つ人たちの疑問に丁寧に答える。

例えば、「抱き癖がつくから赤ちゃんの抱っこはやめなさい」という風潮で、抱き癖がつくと信じている義母に対して、抱っこはした方がよいという考えを説明する場合は、
【✖悪い例】
・「お義母さんの時代とは違うんです!病院の先生も言ってましたよ!抱き癖なんてないんです。たくさん抱っこしてあげるのがいいんです!」

【〇良い例】
・心の中で…「お義母さんが子育てをしていた時代はそれが“当たり前”だったんだから、急にそれを否定されたら嫌な気持ちになるよね…。でも私は調べた結果、乳児期にたくさん抱っこしてあげたい!」
・「抱き癖がつくから抱っこをしすぎるのは良くないという考えもありますね。でも、私なりに調べてみたのですが、抱っこをすることは、愛着形成にとても重要みたいなんです。なので、私はなるべく小さなうちは抱っこをしてあげたいんです。」
と説明すると良いでしょう。

まとめ

本記事では、センメルヴェイス反射についてご紹介しました。
簡単にまとめると、
センメルヴェイス反射とは?
今までの考えに固執し、それに反する新しい考えを拒絶する行動傾向です。
センメルヴェイス反射の由来は?
当時の医学界で「手洗い」の有用性を否定されたハンガリー人医師「イグナーツ・ヒュレプ・センメルヴェイス」が語源となっています。
センメルヴェイス反射を起こす原因は?
信念固執と錯誤相関が関係していると考えられています。
センメルヴェイス反射の具体例は?
コロナ禍における欧米人のマスク着用拒否や「抱き癖がつくから赤ちゃんの抱っこはやめなさい」という風潮、一昔前の練習中の水分補給の禁止などの例があります。
どうすれば避けられるのか?
相手の否定ではなく、自分の意見の信頼を得られるような説明をしたり、自分の意見を客観的に考えてみたりすることで、センメルヴェイス反射を避けられる可能性が上がります。